2022 Fiscal Year Research-status Report
ファンデルワールス超薄膜・界面設計に基づく創発二次元物性開拓
Project/Area Number |
21K13888
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松岡 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (20897681)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ファンデルワールス物質 / 超伝導 / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ファンデルワールス結晶を薄膜化して得られる二次元物質において、二次元物質特有の結晶構造の空間反転対称性の破れを活かした超伝導・磁性物性の開拓に臨む。特に、面内方向に空間反転対称性の破れを有する二次元金属NbSe2・TaSe2ではその空間反転対称性の破れを反映した多彩な物性が期待される。これら両物質の大面積薄膜をベースに、ヘテロ構造やマイクロデバイスを作製し、ユニークな空間反転対称性の破れを反映した新奇物性の開拓を行うのが本研究の目的である。本年度の研究では、以下の二点において成果があった。 ①本研究では、ファンデルワールス超薄膜・界面設計による新規物性開拓の一環として、分子線エピタキシー法(MBE)を用いて作製した磁性ファンデルワールスヘテロ構造における磁気近接効果について研究を行ってきた。特に今年度は近接効果を介して非磁性金属NbSe2中に誘起された磁化の発現についてまとめた論文が出版された。このようなファンデルワールスヘテロ構造における非磁性金属への磁性の誘起を実現した例は初であり、スピントロニクスへの応用展開が期待される。 ②ファンデルワールス超薄膜として作製可能な3R-TaSe2は超伝導体であるが、3R-TaSe2では面直方向と面内方向の両方の反転対称性の破れが共存しており、ラシュバ-イジング複合型超伝導体と言えるものが発現している。昨年時点で、3R-TaSe2のマイクロデバイスを作製しそこでラシュバ型・イジング型をそれぞれに対応する非相反伝導現象が観測されていた。今年度のアップデートとしてマイクロデバイスの作製プロセスを改善し、プロセス前後でほぼ変わらない良質な超伝導物性を得ることに成功したとともに、巨大な非相反伝導現象・ゼロ磁場ダイオード効果といった顕著な振る舞いを観測することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の特筆すべき進捗として、3R-TaSe2超伝導体における巨大な非相反伝導現象の観測が挙げられる。超伝導の非相反伝導現象の研究自体は今現在世界中で精力的に研究されているトピックであるが、だからこそ、本研究では3R-TaSe2超伝導体のユニークな性質を見極める必要があった。そこで我々が思いがけず見出した3R-TaSe2超伝導体のユニークさとは、その結晶対称性が複合的に破れていることであった。一般に反転対称性の破れた超伝導は面直方向の対称性が破れたラシュバ型と面内方向の対称性が破れたイジング型の二種類に大別されるが、3R-TaSe2の反転対称性の破れでは面直方向と面内方向の両方が共存しており、従ってラシュバ-イジング複合型超伝導と言えるものが発現している。このような両方の特性を併せ持つ超伝導体は他に類を見ない。 そこで、本研究では3R-TaSe2超伝導体の二次元超薄膜を作製し、二次元イジング型超伝導の特長である巨大な臨界磁場と、ラシュバ型の特長である磁場を印加することで誘起させる非相反応答の二つを組み合わせることで、強い磁場下での超伝導非相反伝導現象を観測するに至った。この非相反シグナルの大きさは、数々の超伝導非相反伝導現象についての先行研究で観測されたものと比べても特に巨大であり、特筆すべき成果であると言える。以上の理由をもとに本年度の研究進捗状況を当初の計画以上と設定した。
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Strategy for Future Research Activity |
超伝導体3R-TaSe2における輸送現象に関する研究に力点を置く予定である。まずは、磁場方位が試料に対して変化した際の非相反伝導現象の振る舞いを詳細にトレースすることで、どのような機構から非相反伝導現象が生じているかを議論する。加えて、現在の測定系では超伝導転移温度が2.5K周辺の試料に対して2K以上での輸送現象しか評価できていない。従って、超伝導転移温度から十分低い温度領域での超伝導の磁場応答、ひいては非相反伝導現象は現状観測されている高温領域での振る舞いからはまた異なったものになる可能性がある。そのため、希釈冷凍機や強磁場施設を利用して磁場領域・温度領域において広範な範囲で輸送現象を詳細に調べる必要がある。また、観測された現象の起源について理解を深めるためにも理論的な提案を集めつつ、実験と理論の照らし合わせを行う。
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Causes of Carryover |
来年度も研究に必要な実験機材・寒剤などの購入費用が必要となるため、次年度使用額の助成金を残した。
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Research Products
(9 results)