2022 Fiscal Year Research-status Report
プラズマを用いたトリチウム化水素化合物ガスの分解によるトリチウム抽出法
Project/Area Number |
21K13899
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大宅 諒 九州大学, 総合理工学研究院, 助教 (10804750)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 水素化合物ガス / プラズマ分解法 / トリチウム抽出 / 燃料循環システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、燃料循環システムの要素機器として、プラズマを用いたトリチウム化水素化合物ガスの分解によるトリチウム抽出法の有効性を明らかにすることを目的とする。そのために、(1)最適な分解効率を与えるプラズマ条件を探索し、(2)副生成物の堆積を低減するための手法を検討することによって、高効率の長時間維持を目指す。また、(3)核融合実験装置からの真空排気ガスを想定した実証実験を行う。 本年度は、昨年度に引き続き、容器内壁への炭素堆積に注目して研究を進めた。炭素堆積はメタン分解の際に発生し、水素回収率を低下させる原因であった。しかし、昨年度、容器内壁に炭素を堆積させた状態で水蒸気のプラズマ分解を行うと、副生成物の酸素が減少し、水蒸気の分解効率が大きく増加することを発見した。本年度は、このメカニズムを明らかにするため、水分子と電子の衝突断面積のデータベースを用いた解析を行うとともに、容器内に設置したステンレス試料の詳細な表面分析を行った。さらに、ガス分析計の較正により関与するガスの分圧を厳密に評価し、容器内の物質収支を検討した。 衝突断面積を用いた解析により、プラズマ中での反応は解離性電子衝突が支配的であると考えられる。電子との衝突により水分子は分解して水素が発生するとともに、副生成物として酸素が発生する。一方、容器内に設置した試料の表面分析により、水蒸気分解実験後に炭素が除去されていることが確認された。この結果は、容器内壁において、酸素による炭素の化学損耗が起こっていることを示している。以上のことから、酸素が減少し、酸素原子と水素分子の再結合反応(分解の逆反応)が抑制された結果、分解が促進されたと考えられる。また、容器内の物質収支の検討により、容器内壁に水素が吸蔵されていることも示唆されており、容器内でのプラズマ-壁相互作用が重要だと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プラズマ中の分解過程に関わる水分子と電子の衝突断面積のデータベースを調査することで、水蒸気分解は解離性電子衝突が支配的であることが分かった。更なる分解率の上昇を目指し、高周波電力・容器内圧力・ガス流量など様々な実験条件を変化させ、化学工学の知見から最適なプラズマ条件の選定を進めている。 炭素堆積と水蒸気分解効率の関係を明らかにするため、容器内にステンレス製の試料を設置し、炭素堆積させた状態で水蒸気のプラズマ分解実験を行った。実験後の試料表面について、エネルギー分散型X線分光法で元素分析を行った。これにより、プラズマ-壁相互作用が、プラズマ中での反応に大きな影響を及ぼすことが判明した。分解率の更なる向上と水素回収の高効率化を目指した研究を進めている。 ガス分析で使用した四重極質量分析計(QMS)において、出力電流から各ガス種の分圧の定量評価には、ガス種毎にQMSの感度を較正する必要があった。QMSの感度は、イオン化効率・四重極フィルタの通過効率・電子増倍管の増倍率・真空ポンプの排気速度に関係し、それぞれがガス種によって大きく異なる。さらに、経年的にも変化することから、感度の較正は難しい。本研究では、それぞれの関係要素について質量電荷比(m/z)依存性を評価し、相対的な感度のm/z依存性を求めた。さらに経年変化に対応して、重水素標準ガスリークを用いて絶対較正も実施した。これにより、精度の高い分圧測定が可能となり、容器内の物質収支の解析を進めている。 核融合装置からの真空排気ガスを想定した実証実験を行うため、九州大学応用力学研究所の長時間放電型核融合実験装置QUESTに設置したQMSで、真空容器内のガスの粒子種分布を調べる準備を昨年度から継続している。また、実験室で真空排気ガスを想定した実験を行うため、メタンや水蒸気など2種類以上のガスを同時にプラズマ分解するための準備も進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である来年度は、本年度までの成果を更に発展させるために、以下の研究を推進する。 (1)最適な分解効率を与えるプラズマ条件については、本年度に考案したQMSの感度較正法を活用して、より精度の高いガス分析を行い、反応に関与する原子分子過程の調査と検討を行う。それにより、最適なプラズマ条件を探索するとともに、プラズマ-壁相互作用との関係を総合的に理解する。また、高周波電力・容器内圧力・ガス流量による分解効率の変化を詳細に調査し、化学工学の知見から分解率の経験則を導出することで、分解率を向上させる実験条件を探索する。 (2)本年度明らかになった炭素堆積による水蒸気分解率向上のメカニズムから、炭素等の副生成物の堆積を低減する手法に着目して、水素回収率を向上させるプラズマ条件を探索する。そのために、本年度から、プラズマ-壁相互作用の既存のコードを用いて、容器壁における反応生成物の堆積や再損耗、水素吸蔵・再放出特性のシミュレーションを継続し、実験結果と比較してそれぞれに関わる素過程を検討する。これによって、分解率の最適化を図るとともに、容器壁の材料を探索して選定する。 (3)核融合実験装置からの真空排気ガスを想定した実証実験として、九州大学応用力学研究所の長時間放電型核融合実験装置QUESTにおいて、真空容器内のガス種を分析する。その分析結果に基づいて、実機における真空排気ガスの成分を実験室で再現し、メタンや水蒸気など2種類以上のガス種を同時にプラズマ分解する実験を実施する。これをもとに、トリチウム化水素化合物ガスのプラズマ分解法の問題点を発掘し、その対策を検討することで、将来の核融合炉における燃料循環システムの要素機器としての有効性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度は、(1)水分子と電子の衝突断面積のデータベースを用いた実験データの解析、(2)容器内壁に設置したステンレス試料の表面分析、(3)ガス分析のための四重極質量分析計の感度較正によるガス流量の厳密な評価に重点を置いて研究を進めた。これらの重点的な取り組みによって、本研究目的の達成に向けて重要な知見を得ることができた。既存の実験・分析装置を用いた実験を中心として、研究を実施し、予定よりも少ない経費で実験が可能となり、次年度使用額が生じた。来年度は、更なる実験を行う計画であり、核融合炉における真空排気ガスを想定した実験を既存の実験装置で実施する予定である。このための装置改良の経費や金属材料試料の購入等のために次年度使用額を活用する予定である。 また、今年度も昨年度と同様に、本研究成果の発表を予定していた学会や国際会議の多くがオンライン開催されたことに伴い、当初の見込みよりも出張旅費の使用が少なくなった。来年度は、ほとんどの学会や国際会議が現地開催となる見込みであり、本研究課題の最終年度でもあるため、積極的に成果発表と情報発信を行う。また、より高度な試料分析を行うことも計画しており、分析装置の設備使用料として、次年度使用額を充てる予定である。
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