2021 Fiscal Year Research-status Report
ゲージ理論・重力理論における赤外安全な散乱行列の構築とその応用研究
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21K13925
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Research Institution | Kisarazu National College of Technology |
Principal Investigator |
平井 隼人 木更津工業高等専門学校, 基礎学系, 講師 (40879417)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 量子電磁力学 / 赤外発散 / 漸近対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子電磁力学において、赤外発散の生じない散乱行列に基づいた散乱理論を発展させた。背景として、従来の電子のフォック状態に対する散乱行列は赤外発散が生じるが、電子が無限個の光子で囲まれているドレス化状態に対しては散乱行列が赤外有限に計算できることが知られていた。しかし、赤外有限な散乱行列を用いて実際に観測量を計算を行う方法は確立されていなかった。 私たちは一般的なドレス化状態に対する散乱行列を計算し、赤外発散が生じないためのドレス化状態に対する条件を導出した。また、一般的なドレス化状態を始状態とした場合において 、終状態の密度行列を計算し、低エネルギー光子の寄与を足し上げる計算を実行した。得られた終状態の密度行列から散乱断面積を計算し、始状態がドレス化状態の波束の場合は散乱断面積に対して従来の計算法とは異なる結果を与え得ることを明らかにした。従来の計算に基づくと、低エネルギー光子の放出により、始状態の干渉効果の情報が持ち去られるが、ドレス化状態を始状態とした場合においては始状態の干渉効果の情報は散乱過程において保存されることが理解できた。また、この性質は終状態として運動量が決まった状態でなく、複数の運動量の状態の重ね合わせ状態の波束を観測した場合でも同様に成り立ち得る結果を得た。得られた散乱行列の結果は量子電磁力学の持つ漸近対称性が散乱行列に対して与える制限とも整合していることも理解できた。これらの結果は散乱過程の始状態と終状態として空間に局在した波束状態を用いた際に、散乱断面積の計算精度を改善し得る重要な結果と捉えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた量子電磁力学における一般的なドレス化状態に対する散乱行列の計算を実行することができた。さらに、始状態がドレス化状態の波束状態である場合において、終状態の密度行列を計算し、低エネルギー光子の寄与を足し上げる(トレースアウトする)計算も実行することができた。また、電子が散乱し、低エネルギー光子を放出した後においても、始状態の波束の干渉効果の情報が失われずに残ることを計算で確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ドレス化状態を用いた散乱行列の計算における近似の高次項の計算法について研究し、計算精度の向上を図る。従来の計算に基づいた散乱断面積の結果とドレス化状態を用いた結果の違いが増幅するような粒子散乱の測定法について考える。また、量子電磁力学において得られた解析方法を生かし、重力理論や量子色力学における赤外有限な散乱行列の解析方法について研究する。
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Causes of Carryover |
今年度はCOVID-19の流行の影響により、旅費や人件費が生じなかったため、予定より使用額が少なくなった。 来年度は研究の進行度に合わせて対面の研究会にも積極的に参加し、繰り越し金も含めて旅費として使用する予定ではあるが、オンライン開催となった場合や教育業務により参加ができない場合は今年度と同様の状況になる可能性がある。
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Research Products
(1 results)