2021 Fiscal Year Research-status Report
機械学習と物理モデルを用いた原始星円盤形成の観測的研究 -解析手法の開発と実践-
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21K13954
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大屋 瑶子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00813908)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 星形成 / 機械学習 / 深層学習 / 星間物質 / 星間化学 / 電波天文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、原始星円盤の形成過程の観測的研究において、機械学習および深層学習を導入することで、データがもつ情報を最大限に引き出すための新たな解析手法の開発・実践・検証を行うことである。データ解析に有効な手法の候補として、主成分分析 (PCA)、サポートベクトルマシーン (SVM)、三次元畳み込みニューラルネットワーク (3DCNN) を導入した解析を行った。解析には、国際共同大型電波干渉計アルマ (ALMA) による観測データを使用した。 教師なし機械学習の一種であるPCAを、ALMAで観測した23本の分子輝線データに適用した。この手法を三次元のデータに適用することで、分子輝線の分布に加えて、速度構造の情報を活用して、無バイアスに分類することに成功した。この結果をもとに、分子種の違いによる分布・速度構造への影響を指摘した。 教師あり機械学習の一種であるSVMおよび教師あり深層学習の一種である3DCNNを用いて、速度構造を判別するモデルを作成した。教師データとして、二種類の異なる速度構造をもつ物理モデル (回転支持円盤とエンベロープガス) の擬似観測データを作成した。SVM, 3DCNNのいずれを導入したモデルも、テスト用の擬似観測データに対して高い汎化性能を示した。学習済みのモデルを実際のALMAデータに適用し、観測された分子輝線の速度構造の判別を実施した。その結果、多くの分子輝線が円盤・エンベロープの両構造を捉えるのに対し、一部の分子輝線が円盤構造を選択的に捉えるトレーサーの役割を果たすことを見出した。 以上の成果は、国内外の学会で発表するとともに、学術論文として報告する予定であり、一部はすでに出版済みまたは投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低質量原始星天体L483のALMA観測データに対して、教師なし機械学習の一種である主成分分析 (PCA) を適用することで、観測された分子輝線の分布と速度構造を分類した。三次元の観測データに対する分類を実施することで、速度情報を含んだ無バイアスな分類を実現した。その結果、メタノールなどの飽和有機分子が円盤形成領域に集中して分布していること、中でも窒素原子を含む有機分子 (NH2CHOなど) が原始星近傍で高速回転する円盤成分を捉えることを明らかにした。この成果は、円盤形成に伴う化学進化を特徴付けるものであり、国内外の会議で発表するとともに、学術論文として報告した (Okoda et al. 2021, ApJ, 923, 168)。 円盤形成領域のガスの速度構造は、ケプラー回転円盤と、回転・落下するエンベロープガスに大別される。観測データから天体の物理情報 (原始星質量、角運動量など) を引き出すには、これらの速度構造の判別が不可欠である。サポートベクトルマシーン (SVM) および三次元畳み込みニューラルネットワーク (3DCNN) を導入し、観測された速度構造を判別する手法を開発した。機械学習SVMおよび深層学習3DCNNは、いずれも教師ありの手法である。上記の速度構造の物理モデルによる擬似観測データを教師データとした。いずれの手法による学習済みモデルも、テスト用の擬似観測データに対して98.9%以上の高い判別精度を示した。学習済みモデルを実際のALMAデータに適用し、ケプラー回転円盤のトレーサーとなる分子輝線 (CH3COCH3)を見出した。これらの成果について、国内外の会議で発表するとともに、学術論文としてまとめ、投稿中である。 以上の成果により、機械学習・深層学習を導入した解析手法の有効性を示すとともに、速度情報を含む三次元データを用いた解析の重要性を指摘した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発した解析手法を、より多くの観測データに適用し、有効性を実証する。解析には、ALMAを使用した大型観測プロジェクトFAUSTによる13天体での観測データを使用する。この観測データはすでに概ね取得済みである。観測された元データに加え、解析に伴って生じるデータ、また物理モデル計算による擬似観測データを保持するため、大容量ストレージを措置する。本研究課題で使用する記憶容量は、130 TB程度と見込まれる。 本研究課題では、電波観測データの新たな解析手法の開発のため、国内外の研究者と積極的に議論を進めている。引き続き、機械学習・深層学習を専門とする研究者との議論を重ねることで、これらの手法の天文観測研究への応用を的確に実現していく。本課題で取り扱う観測データは、欧・米との国際共同研究として推進している大型プロジェクトで取得したものである。このプロジェクトに参加する国内外の研究グループとの議論を通して、観測研究の立場からも解析結果を注意深く読み解く。オンラインでの議論をベースに、必要に応じて国内外の研究者を訪問して活発に議論することで、本研究課題を強力に推し進める。 現在、電波天文学では、ALMA観測による膨大なアーカイブデータが公開されており、そこに眠る情報をいかに活用するかという問題に直面している。本課題は、機械学習・深層学習の導入によって、この問題に正面から取り組むものである。開発した解析手法を国際的なプラットフォーム (GitHubなど) を通して広く共有するとともに、その有効性を積極的に公表することが求められる。そのため、本課題で得られた成果を、学術論文としてまとめ、学術誌に投稿する。また、国内外の国際会議等に精力的に参加し、成果報告を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の状況を踏まえて、国際会議での発表をオンラインでの参加に切り替え、また国内外の研究者を訪問することを極力控えることで、会議参加費および旅費としての使用額が減少したため、次年度使用が生じた。 本年度は、国際会議での成果報告と、国内外の研究者への訪問に、これらの助成金を充当する。また、大容量ストレージと計算機を措置することで、研究をさらに加速する。
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Research Products
(13 results)