2021 Fiscal Year Research-status Report
宇宙風化模擬実験から探る、太陽系小天体表面の有機物の化学進化
Project/Area Number |
21K13981
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 徹 京都大学, 理学研究科, 特定研究員 (80750455)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 宇宙風化 / リュウグウ / 小惑星 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、有機物に富む小惑星表面で起こる変化の解明を目指している。今年度は、炭素質の小惑リュウグウから持ち帰った試料の初期分析が始まったため、リュウグウの初期分析に参加する形で、小惑星表面で起こる化学進化の一旦を明らかにすることを試みた。具体的には、京都大学で主に行われた初期分析に参加し、炭素質小惑星の宇宙風化組織の同定を試みた。分析手法として、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡を用いた。まず、粒子表面の微細な模様や化学組成・鉱物種を調べ、太陽風や微小隕石衝突によって変成した組織の探索を行なった。また、リュウグウの初期分析チームは多くの海外研究機関が参加しているため、京都大学においてリュウグウ粒子の取り出しや固定、初期的な試料の記載を行なったのち、海外研究機関へ試料を送ることで研究協力の推進に貢献した。リュウグウ試料の主成分は、層状ケイ酸塩と呼ばれる含水鉱物が占めている。それらの天然の宇宙風化産物はこれまでに誰も見たことがなかったため、宇宙風化の同定は困難であったが、表面模様の変化や結晶構造の変化など証拠を電子顕微鏡観察によって見つけることで、リュウグウの試料に宇宙風化の痕跡が残されていることを示すデータを得た。加えて、水質変成の産物として知られている硫化鉄や磁鉄鉱、炭酸塩鉱物の表面においても宇宙風化の組織を記載した。これにより、リュウグウの表面の宇宙環境の中で変化した鉱物の特徴をおおまかにと らえることを達成した。こうした初期的な研究成果について、秋・春に開催された国際学会(日本、 アメリカ)にて発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では水や有機物に富む小天体の表面で起きる化学進化の解明を目指している。本年度は、炭素質小惑星リュウグウの試料を直接観察する機会を得たことで、リュウグウの試料の分析から炭素質小惑星の宇宙風化の証拠を得ることができた。リュウグウの試料分析から、予想していた鉄金属を宇宙風化産物として発見することができた。本課題において、金属鉄は有機物合成の触媒になる可能性があると提案しており、有機物の変化に着目した化学進化を捉えるために研究を進展させることができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は天然の宇宙風化の組織に注目して記載学的な研究を行った。その結果、炭素質小惑星であるリュウグウの表面で実際にどのような変化が進行したのかについて、ナノスケールでの変化をとらえることができた。一方で宇宙風化の素過程を理解する上では、宇宙環境を模擬した実験も重要であり、本課題のテーマでもある。今後はリュウグウ試料の特徴をより深く理解した上で実験的なアプローチからも宇宙風化による化学進化の解明を目指したい。
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Causes of Carryover |
本研究では、研究代表者が所属する京都大学ではなく、宇宙科学研究所や九州大学の分析装置を用いて研究を遂行することを計画の一部としていた。しかし2021年度はコロナウィルス蔓延による影響で外部機関での長期への出張計画を延期した。そのため旅費や分析のために支出される予定であった助成金は未使用のまま次年度にもちこすことにした。
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Research Products
(3 results)