2022 Fiscal Year Research-status Report
ベイズ推定に基づくアンサンブル地下構造推定から一気通貫した次世代震源解析
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21K14024
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
縣 亮一郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(地震発生帯研究センター), 研究員 (80793679)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ベイズ推定 / 震源解析 / 地下構造推定 / アンサンブル / 深層学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、1.ベイズ推定に基づく地震波速度構造推定により、地下構造を不確かさの統計的性質ごとアンサンブルとして推定し、2.そのアンサンブルを計算用モデルとしてそのまま取り込むことで地下構造を不確かさごと考慮した震源解析を行うことを目指す。今年度は、1を実施するための手段として、地震探査に基づき地下の地震波速度構造を推定する手法である2次元屈折初動走時トモグラフィを、Physics-Informed Neural Networks(PINN)を用いることで不確かさ推定まで行う手法を開発し、有効性を示した。PINNは、支配方程式に基づく損失関数を用いたニューラルネットワークにより支配方程式の求解・パラメータの逆解析を行う方法である。逆解析の一種である屈折初動走時トモグラフィをPINNを用いて行う方法は既に提案されている。一方、逆解析の不確かさ定量化を行うためには、ベイズ統計などの枠組みを用いて推定パラメータを統計的に扱う必要がある。本研究は、PINNに基づく地震波トモグラフィをベイズに拡張して不確かさ定量化を行う方法を提案し、P波速度構造の事後確率分布を推定可能とした。そして、2次元屈折初動走時トモグラフィを模した数値実験において本手法の有効性を検証した。これらの結果は査読付き国際誌に投稿され、現在査読中となっている。さらに、本手法を用いて南海トラフ域における屈折法地震探査の実データを解析中である。2について、南海トラフ域のスロースリップの断層すべりを、1次元的な不均質性を仮定した地下構造を不確かさごと考慮して推定した内容に関する論文が、“Journal of Geophysical Research: Solid Earth”に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、初年度までに1の地震波速度構造推定と2の震源解析と組み合わせた計算プログラムの開発を行い、本年度までに数値実験を完了することになっていた。1においては、地震波速度構造が鉛直方向にのみ変化することを仮定し、すでに手法の開発されている1次元速度構造を推定する計画としていた。しかし、震源解析の対象とする海域の地震に関してより適切な解析を行うために、1次元速度構造において無視される水平方向の構造変化を重要視することに方針変換し、2次元構造を推定対象とすることとした。これに伴い、1について新たな手法開発に着手することとなった。ベイズ推定に基づく2次元地震波トモグラフィと、PINNのベイズ推定への適用の双方とも、まだ発展途上の研究分野であり、手法開発に多くの時間を割くこととなった。その結果、1と2を組み合わせた数値実験を完了する、という当初の目標には至らなかった。一方で、本研究で提案したPINNに基づく物理ベースの逆解析をベイズ推定へ拡張する枠組みは、固体地球科学のみならず計算科学分野においても非常に先端的な研究成果であり、論文が受理されれば一定のインパクトが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
開発した不確かさ推定手法を用いた、南海トラフ域における屈折法地震探査のデータへの適用にすでに着手している。令和5年度はこれを完了し、対象とする探査断面下の2次元速度構造の事後確率分布を推定する。その事後確率分布から2次元速度構造のアンサンブルを抽出する。抽出したアンサンブルを2の地下構造を不確かさごと考慮した震源解析における計算用モデルとしてそのまま取り込む。当初扱う計画であった1次元速度構造とは異なり、2次元速度構造に基づいた震源解析には差分法や有限要素法などの数値計算手法を用いた地震波の数値計算が必要となる。これには、代表者の所属機関の所有するスーパーコンピュータを用いた計算により対応する計画である。計算コストの問題などで震源解析の実施が難しくなった場合は、対象断面付近で発生した地震に対する地震波のばらつきを定量的に評価し、速度構造の不確かさが震源解析へもたらしうる影響について議論する。
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Causes of Carryover |
旅費を計上していた学会等がオンライン開催となったため、次年度使用額が生じた。一方で、深層学習を扱うことになった関係で、計算環境整備のための諸経費(スーパーコンピュータ利用料、ワークステーション・ストレージ購入費)が当初計画以上に必要となった。このため、これらの項目に次年度使用額を割り当てる予定である。
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[Journal Article] Bayesian Multi‐Model Estimation of Fault Slip Distribution for Slow Slip Events in Southwest Japan: Effects of Prior Constraints and Uncertain Underground Structure2022
Author(s)
Agata, R., Nakata, R., Kasahara, A., Yagi, Y., Seshimo, Y., Yoshioka, S., & Iinuma, T
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Journal Title
Journal of Geophysical Research: Solid Earth
Volume: 127
Pages: -
DOI
Peer Reviewed
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