2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K14025
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡邉 友浩 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (80731968)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 亜硫酸 / 硫黄酸化菌 / リポ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
太古代地球における生命のエネルギー代謝のひとつには、亜硫酸の酸化還元反応が関与していたと考えられている。この反応を触媒する酵素は生命進化を研究する上で重要である。本研究では、硫黄化合物を酸化してエネルギーを獲得する微生物(硫黄酸化菌)の一部が、今まで知られていなかった酵素を使って亜硫酸合成反応を触媒する可能性を検証している。情報生物学と生化学の知見を総合すると、未知酵素の触媒反応にはリポ酸の誘導体が関与すると考えられる。このため、リポ酸を利用して硫黄化合物からエネルギーを獲得する硫黄酸化菌を実験材料に用いた。対象の硫黄酸化菌を、複数の硫黄化合物あるいは水素ガスをエネルギー源とする条件で培養し、それぞれの条件で発現する遺伝子を同定した(トランスクリプトーム解析)。この結果、硫黄化合物をエネルギー源とする際に、リポ酸の誘導体を生じる酵素の遺伝子発現量が有意に増加することを見出した。この遺伝子と一緒に発現量が変化する遺伝子の中に、亜硫酸を合成する未知酵素遺伝子が含まれると考えられる。現在、各遺伝子の配列特徴を詳細に解析している。これと同時に、硫黄酸化菌を大量に培養するための実験系を確立した。今後、大量培養で得られた細胞から細胞粗酵素液を調整して、未知酵素が触媒すると考えられる酵素反応の検証実験を行う。この際、リポ酸結合タンパク質が反応基質の1つとして関与すると考えられる。このため、硫黄酸化菌由来のリポ酸結合タンパク質を大腸菌で合成し、これをアフィニティークロマトグラフィー等で精製した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目の主な目標は、比較ゲノム解析によって未知酵素遺伝子の候補を絞り込むことであった。ゲノム解析の結果、扱う情報量が当初の予想をおおきく上回り、当初の研究環境では網羅的な解析には到達しなかった。一方で、2年目以降に予定してたトランスクリプトーム解析を完了した。いくつかの遺伝子の機能群に着目すると、各培養条件で発現量の変化が想定される遺伝子について統計的に有意な変化が認められた。このことから、一連の実験が正常に完了したと判断した。いくつかの機能未知遺伝子の発現量が特定の条件で高くなることが分かっている。現在、多面的な解析手法を用いて各遺伝子の配列特徴を解析している。また、2年目以降に予定していた硫黄酸化菌を大量培養する実験系の確立と酵素反応基質となるリポ酸結合タンパク質の調整を完了した。以上より、本計画はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
十分な進展が得られなかった比較ゲノム解析について、今後は解析対象を解析可能な情報量に選抜することで研究を推進する方針である。本計画立案時と比べて、アミノ酸配列からタンパク質立体構造を予測するAI技術が飛躍的に向上した。これをうけて、本計画においても標的の未知酵素の候補配列について構造予測を取り入れた研究を展開する予定である。当初の計画を上回る進展が得られた生化学実験については、3年目に計画していた未知酵素の反応仮説の検証を2年目に前倒しして実施する方針である。
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Research Products
(3 results)