2021 Fiscal Year Research-status Report
腕足動物の化石タンパク質を用いた分子進化プロセスの解析
Project/Area Number |
21K14027
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
磯和 幸延 筑波大学, 下田臨海実験センター, 研究員 (70782572)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 腕足動物 / タテスジホウズキガイ / 殻体タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では腕足動物の化石中に保存されたタンパク質のアミノ酸配列を決定し、過去の遺伝情報を復元して、比較することを目指している。本年度は主に、化石タンパク質を解析する予定の腕足動物の現生種において殻体タンパク質を網羅的に同定し、現生種における殻体タンパク質の配列の多様性を明らかにすることを目的に研究を行った。その結果、本年度あらたに、嘴殻亜門に属する腕足動物の1種であるCoptothyris grayi(タテスジホウズキガイ)において、殻抽出物におけるプロテオーム解析を行い、13種の殻体タンパク質を同定することに成功した。これらのタンパク質には、他の動物門の硬組織にも含まれるMSP130やP-selectin, Cathepsin Bが含まれていた。これらのタンパク質は他の腕足動物の殻体タンパク質としても同定されており、殻形成において重要な機能を有する可能性が予測される。一方、8種のタンパク質は腕足動物に特異的な殻体タンパク質であり、先行研究においてLaqueus rubellus(ホウズキチョウチンガイ)から同定され、殻体中に最も多く存在すると予測されたICP-1もC. grayiの殻から同定された。また、特徴的なドメイン構造などは見つからなかったがC. grayiに特異的な殻体タンパク質も1種、同定されている。今後、これらの殻体タンパク質をターゲットとして、C. grayiにおける化石タンパク質を同定する予定である。また、本年度はC. grayiを用いた解析と並行して、研究代表者が所属する筑波大学下田臨海実験センターの周辺海域で、調査船を用いたドレッジ調査による採集を行い、以前この海域で報告があったShimodaia pterygiotaの採集に成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究計画では、主に化石タンパク質を同定する予定の腕足動物の殻体タンパク質を現生種で同定することが目的であったため、C. grayiの殻体タンパク質を同定することができたことは、大きな前進であるといえる。本研究において使用する予定の化石サンプルのうち、現生種における殻体タンパク質が同定されていたのはL. rubellus1種のみであったが、今回の成果により、C. grayiにおいても化石タンパク質の同定が可能になった。また、化石タンパク質を同定する際、ターゲットとして最も注目していた、L. rubellusにおいて殻体中に最も多く存在するとされるICP-1がC. grayiの殻体中からも見つかり、この種においてもICP-1の化石タンパク質が同定可能であることを確認することができた。一方で、当初の計画ではL. rubellusの近縁種であるPictothyris picta(コカメガイ)やTerebratalia coreanica(カメホウズキチョウチン)でも現生種において殻体タンパク質を同定する予定であったため、その点は若干、当初の予定を達成できなかった。これらの種については次年度以降も現生種のサンプリングと殻体タンパク質の同定作業を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、現生腕足動物の殻体タンパク質の同定を進めつつ、化石タンパク質の同定を始める予定である。現生種の解析で用いたL. rubellus及びC. grayiの化石サンプルはすでに、房総半島にある約30万年前の地層から採集済みであるが、これらのサンプルに加えて、追加のサンプル採集も行う予定である。これらの化石サンプルのコンタミネーションを次亜塩素酸ナトリウムにより除去した後、EDTAを用いて脱灰し、化石中のタンパク質を抽出する。研究代表者は、先行研究において、殻体内に最も多く存在すると予測されるICP-1の配列をもとに合成したペプチドを用いて、ICP-1に特異的に結合する抗体を作製している。ウェスタンブロッティングにより、抗体の特異性を確認した後、ELISA法により化石抽出物とICP-1抗体との反応を確認し、化石中にタンパク質のアミノ酸配列が保存されているか検証する。その後、抽出した化石タンパク質を、質量分析計を用いて解析し、アミノ酸配列の決定を試みる予定である。
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