2022 Fiscal Year Research-status Report
腕足動物の化石タンパク質を用いた分子進化プロセスの解析
Project/Area Number |
21K14027
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
磯和 幸延 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 特命助教 (70782572)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 腕足動物 / 殻体タンパク質 / 化石タンパク質 / ELISA / ICP-1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は腕足動物の化石中に含まれる殻体タンパク質を同定し、過去の遺伝情報を復元し、比較することで、分子進化プロセスを直接観察することを目指している。本年度は、現生種の腕足動物を採集する目的で、10月に東京大学大気海洋研究所大槌研究センターを訪れ、船舶から採泥器を用いた腕足動物の採集を行った。その結果、Lingula sp.を4個体、採集することに成功し、殻形成組織である外套膜はRNAlaterに保存し、他の組織と殻はエタノール保存した。また、本年度は主に昨年度に購入したマイクロプレートリーダーを用いて、ELISA法により化石中に殻体タンパク質のアミノ酸配列が分解されずに保存されているか検証する実験を行った。研究代表者は先行研究において、嘴殻亜門に属する腕足動物の1種であるホウズキチョウチンガイ(Laqueus rubellus)から殻体タンパク質の1種であるICP-1の全長配列を決定し、質量分析計によるペプチド配列の検出数から、ICP-1が殻体中に最も多く存在することを示した。その後、その配列情報をもとにICP-1に特異的に結合する抗体を作成した。本年度行った実験ではホウズキチョウチンガイの近縁種であるタテスジホウズキガイ(Coptothyris grayi)の現生サンプルと化石サンプルを用いて、殻体タンパク質を抽出した後、ICP-1抗体を用いてELISA法によりその反応を検出した。現在のところ、ネガティブコントロールの反応が強く検出されるため、化石中のICP-1の反応を正確に評価することはできてはいないが、今後、抗体の濃度の検討などを行い、化石タンパク質に対する続成作用の影響を確認するための実験環境を確立することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は主にタテスジホウズキガイの現生サンプルについて、質量分析計を用いて殻体タンパク質の網羅的な同定を行う解析を行ったが、本年度は昨年度購入したマイクロプレートリーダーを用いて、タテスジホウズキガイの化石サンプルにおける殻体タンパク質の保存の状況を確認するために、ICP-1抗体を用いたELISA法による解析を行った。これにより、現生サンプルの解析だけでなく化石サンプルの解析に着手することができ、研究の進捗としては、次の段階に進むことができたといえる。また、現生サンプルの解析についても、新しい腕足動物種のサンプルを得るために東京大学大気海洋研究所大槌研究センターにおいてサンプリングを行った。当初、想定していた嘴殻亜門に属する種のサンプリングはできなかったが、舌殻殻門に属するLingula sp.のサンプリングに成功し、本研究の新たな展開に利用できる可能性がある。一方で、今年度は昨年度まで所属していた筑波大学下田臨海実験センターから琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設に所属が移動し、実験環境の立ち上げに多少時間を要したこともあり、当初予定していた殻体タンパク質抗体を用いた化石タンパク質の存在を確認するための実験環境を確立することができていない。また、本年度は化石種のサンプルについても質量分析計を用いてアミノ酸配列の決定を行うことを予定していため、その点に関しても計画に若干の遅れが生じている。ただし、現生及び化石サンプルからのタンパク質の抽出実験は現在の研究環境で確立できており、来年度以降、配列決定の解析にも着手することを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も現在、行っているICP-1抗体を用いたELISA法による化石サンプル中の殻体タンパク質の保存状態の評価を継続して行う。これにより、化石中に確実に殻体タンパク質のアミノ酸配列が保存されていることを確認する。また、ウエスタンブロッティングを行い、先行研究において作製した抗体がICP-1と特異的に結合することも確認する予定である。これらの実験と並行して、来年度は質量分析計を用いた化石タンパク質の配列決定の解析にも取り組む予定である。現在、解析に用いているホウズキチョウチンガイ、タテスジホウズキガイの化石サンプルは採集済みであるが、房総半島の地層にて追加のサンプル採集を行う予定である。その後、EDTAを用いて、化石サンプルを脱灰し、化石タンパク質の抽出作業を進める。得られた化石抽出物についてICP-1抗体を用いて続成作用の程度を確認した後、質量分析計によるアミノ酸配列の決定を受託解析サービスにより行う予定である。また、来年度からは近縁種であるコカメガイ(Pictothyris picta)及びカメホウズキチョウチン(Terebratalia coreanica)も解析に用いることを予定しており、現生サンプルの採集、現生サンプルからの殻体タンパク質の同定、抗体を用いた化石中のタンパク質の保存状態の確認、化石サンプルにおける殻体タンパク質のアミノ酸配列の決定を順次、進める予定である。その後、配列が得られ次第、時間軸にそった殻体タンパク質の配列の比較を行う。
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Causes of Carryover |
今年度は主に、昨年度購入したマイクロプレートリーダーを用いてICP-1抗体を用いたELISA解析を行った。必要な試薬類などの消耗品も昨年度、購入していたため、今年度は当初予定していたほど、タンパク質抽出やELISA解析に必要な消耗品を購入する必要がなく次年度への繰り越しが生じた。また、当初は現生腕足動物種の外套膜におけるトランスクリプトーム解析と現生及び化石サンプルの殻抽出物におけるプロテオーム解析を受託解析サービスにより今年度行うことを想定していたが、来年度に実施するように研究計画を変更したため、その分の繰り越しも生じている。繰り越した次年度使用額は来年度予算と合わせて、継続して行うELISA解析に必要な試薬類などの消耗品にあてるほか、現生サンプルの外套膜におけるトランスクリプトーム解析及び現生・化石殻体タンパク質の質量分析計を用いたプロテオーム解析を行うための受託解析費用に充てる予定である。
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