2021 Fiscal Year Research-status Report
The anatomy of the planktonic foraminifera shell-forming field
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21K14035
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
長井 裕季子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭技術開発プログラム), 技術スタッフ (20822612)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 微細構造 / 浮遊性有孔虫 / バイオミネラリゼーション / FIB-SEM / 形態形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
有孔虫の中でも速やかに大きな殻室を形成する浮遊性有孔虫に着目し、殻形成部位の微細構造観察を通じて、浮遊性有孔虫の殻形成部位を電子顕微鏡レベルの詳細な記載を行うことで、殻形成プロセス解明の緒とする。浮遊性有孔虫における速やかな殻形成の背景には、カルシウムイオンなどの材料を海水から殻形成部位へと効率的な取り込みを可能にする構造があると考え、「浮遊性有孔虫の石灰化部位を覆う膜表面にある球状構造による表面積の増加が効率的な物質交換を可能にし、迅速な殻形成を実現している」という仮説を検証する。 本課題では、浮遊性有孔虫は底生有孔虫と比較すると、種によっては2時間程度という底生有孔虫の三分の一以下の時間で、より大きくて厚い殻を形成することに着目し、「浮遊性有孔虫の石灰化部位を覆う膜状構造上の球状構造による表面積の増加が効率的な物質交換を可能にし、迅速な殻形成を実現している」という仮説を立てた。浮遊性有孔虫の殻形成部位を対象として、様々な石灰化段階の試料を対象に、電子顕微鏡観察により解剖学的にサブミクロンオーダーの構造を記載することで、この仮説を検証することを目的とする。 2021度は浮遊性有孔虫を採取し、その飼育系および殻形成誘導手法の確立についての試行を中心に実施した。できるだけ長く殻を形成できる状態で飼育するには、プランクトンサンプルを採取後、できるだけ早く拾い出しを行い、次の日に確実に給餌することが重要である。また殻形成誘導にはインキュベータの明暗サイクルを工夫することで殻形成中個体の確認機会を増加させることができた。殻形成中の個体を確認したら電子顕微鏡用の試料に供する為、生物固定を行った。固定した試料は底生有孔虫で確立した臨界点乾燥法を用いて処理を行ったところ良好な試料を得ることができた。今後は集束イオンビームで微細加工した殻形成部位の観察や元素分析などを行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は浮遊性有孔虫を4回採取し、本研究の目的を達成するための実験手法を確立した。また、その過程において複数の殻形成を行う個体を確保し、生物固定を行い、走査型電子顕微鏡にて試料の状態を確認した。 まずは浮遊性有孔虫の飼育系の確立と石灰化誘導条件の探索し、採取後できるだけ早く拾い出しを行い、その後餌としてアルテミアを確実に与えることによってより長期間、浮遊性有孔虫を状態良く維持し、飼育できることがわかった。また、共生藻を持つ浮遊性有孔虫種においても持たない種においても明暗サイクルを工夫したインキュベーターで飼育することによって、殻形成途上の個体を複数得ることができ、浮遊性有孔虫の飼育系を確立し、石灰化誘導条件がわかった。以上の知見が得られたことによって、本研究を確実に推進することができる実験環境が整ったといえる。 さらに、生物固定を行った試料に対して走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行うために、底生有孔虫の殻形成部位観察において確立した臨界点乾燥方法を用いて電子顕微鏡観察用の試料処理を行った。臨界点乾燥を施し脱水した試料をSEM観察を行ったところ、細胞と形成途上の殻の両方が美麗に保存されていることが確認できた。以上から論文投稿に耐えうる観察が実施可能な試料を得る目処がたったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進については、2022年度も引き続き浮遊性有孔虫を採取し、2021年度確立した飼育系を用い、殻形成を誘導し、形成中の個体を生物固定する実験を展開する。殻形成過程について更に詳細に記載するために、微分干渉顕微鏡を用いたタイムラプス観察を実施し、個体レベルでの全石灰化過程を記録する。加えて、臨界点乾燥法が浮遊性有孔虫にも使用できることがわかったことから、条件を最適化しつつ2021年度に固定した殻形成中試料の電子顕微鏡観察用の処理を進めて行く。 走査型電子顕微鏡(SEM)観察では、得られた試料は膜状構造が時間とともにどのように構築され、それとどのような相互関係で炭酸カルシウム殻が形成されていくのかを、時系列的に様々な段階の試料を作成して観察する。あわせて集束イオンビーム(FIB-SEM)を用いて、殻形成部位の横断面を作成する。この露出した横断面の観察から球状構造を含む膜状構造と、沈着した石灰質の超微小形態の両方を観察する。その後、同試料に対して透過型電子顕微鏡(TEM)用の薄片をFIB-SEMで作成し、石灰化部位に対してEDSによる元素マッピングを行う。これらの一連の観察と分析により解剖学的に細胞質及び有機膜のサブミクロンオーダーの構造を記載するとともに、部位毎の地球化学的特徴を捉えることで石灰化プロセスを明らかにし、石灰化時の膜状構造の形成と沈着した石灰質の微細構造の相互関係について観察・比較を行う。 電子顕微鏡観察で得られた膜状構造の形態及びその発達の様子、沈着した石灰質の様子の結果を統合して石灰化プロセスを推定し、 上述の仮説を検証する。得られた成果は段階ごとに査読付き国際誌に投稿するとともに、JpGUなどの学会において発表し、地球科学分野のみならず、細胞生物学など幅広い分野の研究者と広く議論を行う。
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