2021 Fiscal Year Research-status Report
合金元素としての水素の有効活用:構造用耐水素オーステナイト鋼開発の新境地
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21K14045
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小川 祐平 九州大学, 工学研究院, 助教 (30847207)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 鉄鋼材料 / オーステナイト / 強度・延性 / 水素 / 固溶強化 / 変形双晶 / 合金成分 |
Outline of Annual Research Achievements |
オーステナイト鋼において,水素固溶による高強度・高延性化をより効率よく発現させるための合金成分の最適化に向け,当該年度はFe-Cr-Niを主成分とする市販合金5種を用い,水素濃度を複数水準に変化させての引張特性の評価(温度は室温に限定)を行った.結果として,Crを20 mass %以上含む状態においてCr/Ni含有比率を上昇させることにより,水素の固溶度が増加し,かつ材料の積層欠陥エネルギーが低下することで変形双晶がより顕著に発現するようになり,引張強度と均一伸びの上昇量が大きく増加することを新たに明らかにした.また,水素による固溶強化量(降伏応力の上昇量)が固溶水素の原子濃度の1乗に比例し,この固溶強化則はCrとNiの含有量には依存しないこと,すなわちCrとNiは水素固溶度の変化を通して間接的に固溶強化に影響していることを,併せて解明した. 以上に加え,水素による強度・延性向上が比較的顕著なFe-24Cr-19Ni合金(SUS310S)を対象に,水素を130 mass ppm固溶させた小型試験片による走査型電子顕微鏡(SEM)内その場引張試験を行った.変形双晶の発生・成長プロセスをリアルタイムで捉えることに成功し,水素固溶状態では未固溶状態よりも低いひずみ領域において,変形双晶が発生し得ることを実証した.このことから,水素による変形双晶促進効果およびそれに伴う延性向上効果は,水素が双晶の成長ではなく核生成を促進したことに依拠するものであると結論した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では研究期間全体を通して,Fe-Cr-Ni三元系合金を対象に以下2つの目標を掲げている. 《1》水素による高強度・高延性化の潜在機構を原子スケールで明らかにすること 《2》水素による高強度・高延性化が最も効率よく現れる合金組成を明確にすること このうち《2》については当該年度を通じて,目標への到達が概ね完了したと判断している.また,その成果を査読付き国際学術誌へと投稿(掲載済み)したことに加え,水素を有効添加元素として活用するための合金成分設計について,本研究成果に基づく解説記事を日本金属学会会報「まてりあ」へと投稿した(掲載決定済み). 以上,実験・分析の遂行から成果発表までを含め,研究計画が当初の予定通り進展していることから,「おおむね順調に進展している。」の評価とする.
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度を通じて合金成分の影響が概ね解明されたことから,次年度は水素による固溶強化,ならびに双晶変形促進効果についてのさらなる学理的バックグラウンドの構築に力を入れる.具体的にはFe-24Cr-19Ni合金を対象に,温度を-100~150℃,ひずみ速度を0.00005~0.005/sの範囲で変化させた引張試験を行い,固溶強化量および双晶変形促進量,双晶変形開始のための臨界応力や臨界ひずみの温度・ひずみ速度依存性を明確にする.なお,ここでの温度・ひずみ速度変更の目的は,固溶強化や双晶変形促進に対して,変形中の動的な水素拡散が及ぼす影響をスクリーニングすることにある. また,固溶強化は転位運動の熱活性化過程に深く関連した現象であることから,応力緩和試験とひずみ速度急変試験による活性化体積およびStrain-rate sensitivity(SRS)の測定を行って,水素原子による変形応力上昇の熱的成分と非熱的成分を分離する.これに透過型電子顕微鏡による各変形ステージでの転位構造観察を併用して,水素固溶に伴って生じる塑性変形挙動変化の全容解明を目指す.
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Research Products
(2 results)