2021 Fiscal Year Research-status Report
天然氷の成長過程に学ぶ~放射冷却を用いた単結晶氷の製氷技術の検討~
Project/Area Number |
21K14091
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
杉原 幸信 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (00824335)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 放射冷却 / 製氷技術 / 高電圧印加 / 過冷却 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射冷却が優位な条件で形成される天然氷は、一つ一つの結晶粒径が大きく、結晶方位が揃っており、透明度が高いという特徴を持つ。そこで本研究では、天然氷継承者への取材を通して得られた知見を参考に、ラボベースで天然氷の成長過程を人工的に再現する放射冷却装置を構築し、学術研究に使える直径10cm以上の単結晶氷を安定的に短期間で製造する技術の開発に挑戦している。 2021年度は放射冷却下において原料水へ電撃を印加し、意図的に過冷却を解消した際の結晶の成長の様子を観察した。以下に、得られた知見を示す。(1)電撃を印加した場合はしない場合に比べて、過冷却が解消するまでの時間および過冷却度が半減した。(2)電撃の印加によって小さい過冷却度で初晶を生じさせることにより、デンドライト(樹枝状晶)の水深方向への成長量が減少した。これが製氷初期に氷の中に生じる微気泡の析出抑制に繋がる可能性が明らかとなった。(3)過冷却度の増加に対して、初晶成長速度は指数関数的に増加した。これはLindenmeyerら(1957)によるデンドライトの自由成長速度の測定結果とおよそ一致した。(4)初晶成長速度と氷の透明度には負の相関、平均結晶面積には正の相関がみられた。 なお、高電圧パルス印加装置は、理論的には1.5Vの電源を用いたときに6000Vの直流電圧を出力できる回路とした。放射冷却面において対角線上の温度勾配を持つ条件とした。放電用の導線は製氷面の中央かつ水深3mmの位置に設置し、密閉された原料水内へ露出させた。電撃は水温が0℃になった時点を始まりとし、1分間隔で印加した。水温はT型熱電対で計測し、放電用導線からおよそ20mm水平方向へ離れた位置に設置した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、放射冷却による氷結晶成長メカニズムの解明に必要な実験環境を構築した。まず10段のコッククロフト・ウォルトン回路によってインスタントカメラのフラッシュ回路から出力された約300V(電源が1.5Vのとき)の交流電圧を20倍に昇圧し、約6000Vの直流電圧を出力する高電圧パルス印加装置を自作した。そして、対角線上に温度こう配を持つ放射冷却面の中央へ高電圧パルス印加装置の放電用の導線を導き、水槽に満たされた原料水内へ電極を露出させた。これにより、電撃を印加することで意図的に核生成を生じさせる放射冷却製氷装置を作成した。 次に、高電圧パルス印加装置の試験運転を実施した。電撃の印加により過冷却解消までの時間と過冷却度を半減することができたことから、自作した高電圧パルス印加装置が核生成の促進に寄与することを確認した。 さらに、初晶が生じた際の原料水の過冷却度が氷結晶の成長速度や結晶粒径、さらに氷の中の気泡析出に及ぼす影響を可視化実験および画像解析によって検討した。具体的には、①電撃によって強制的に過冷却を破った際の初晶の進展を放射冷却製氷ユニットの真下に設置したビデオカメラで観察し、②ImageJによる画像解析によって初晶の成長方向や成長速度を定量的に評価した。さらに,③できあがった氷をクロスニコル配置した偏光板で挟むことにより、結晶の大きさを観測した。 本研究において重要な実験環境を構築し、汎用ソフトウェアを用いた画像解析方法を確立できたことから、研究の達成度はおおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究実績から、原料水の過冷却度が初晶成長速度や氷結晶の大きさ、微気泡群の析出に影響を及ぼすことが明らかとなった。したがって、2022年度は以下の課題に取り組む。 (1)高電圧パルス印加装置の出力を数種類用意し、電撃の大きさが過冷却解消に及ぼす影響を明らかにする。現状では、過冷却解消までの時間および過冷却度が安定しておらず、バラツキが大きい。実験回数を重ねることで、より安定した低い過冷却度での核生成条件を調査する。 (2)電撃を用いることなく不均一核生成を制御する方法を検討する。核生成における相変化に必要なエネルギーは、異種固相と液相との濡れ角の関数である。すなわち、製氷面と過冷却水との濡れ角を小さくすることで、低い過冷却度での核生成が促進されると考えられる。また、濡れ角を大きくすることで、過冷却度を大きくすることも可能であると言える。製氷面の一部を濡れ角の異なる材質に変更して実験を行うことで、上記の仮説を検証する。 (3)初晶の観察だけでなく、氷を厚さ方向にも十分に成長させる実験をおこない、結晶の様子を観察する。(1)、(2)と並行して実施し、比較する。 以上を通し、一方向凝固かつ原料水の密閉という特徴を持った放射冷却製氷によって、学術研究に使える直径10cm以上の単結晶氷を安定的に短期間で製造する技術の開発を進める。
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