2021 Fiscal Year Research-status Report
固液界面微細気泡の動的挙動解明に向けた全反射蛍光観察に基づく液体温度計測
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21K14095
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
栗山 怜子 京都大学, 工学研究科, 助教 (70781780)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 固液界面 / 液体温度計測 / 蛍光偏光法 / 2色LIF / 全反射蛍光観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は固体・液体界面における微細気泡の動的メカニズム解明に向け,界面極近傍(1um以下)の領域に特化した気泡周囲の液体温度計測技術の開発を目的とする.固液界面の微細気泡が介在する熱流動現象は工学上の有用性が高い一方で観察が難しく,様々な相変化現象の解明に向けた計測技術の開発が求められている.そこで本研究は,エバネッセント波を用いた全反射蛍光観察に基づき界面微細気泡周りの液体温度計測法を確立する.蛍光強度の温度依存性を利用する従来のレーザー誘起蛍光法(LIF)を,計測の安定性,気泡周りへの適用性,時空間分解能の面で発展させ,気泡周囲への適用を試みる.上記の目的に向けて本年度実施した内容を以下に述べる. (1) エバネッセント波照明による全反射蛍光観察システムの構築と評価:プリズムを用いて全反射蛍光観察システムを自作し,蛍光色素によるエバネッセントスポットの可視化や粒子像の観察に基づき,界面選択的な観察が可能であることを確認した. (2) レシオメトリックな温度校正方法の検討:色素濃度分布や時空間的な蛍光強度変化の影響を受けにくい計測法確率のため,2台のカメラによる蛍光の2成分同時計測を行い,2色LIF法および蛍光偏光法による温度校正を実施した.2波長の蛍光強度比に基づく2色LIF法は,色素の界面吸着に起因すると考えられる蛍光スペクトル変化の影響を大きく受けることが分かった.一方,偏光度に基づく蛍光偏光法では,2色LIFに比べて安定した計測が可能であることが確認できたため,今後はこの手法に重点を置いて開発を行う. (3) 蛍光色素の界面吸着の影響評価と対策の検討:固液界面への蛍光色素の吸着の影響と対策を調査するため,計測開始からの経過時間と蛍光強度やスペクトルの変化を計測した.その結果,流路表面のコーティングと色素溶液のpH調整によりガラスへの色素の吸着を抑制できることを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,安定的に存在する固液界面気泡周りをターゲットとした液体温度計測を目標に掲げ,全反射蛍光観察システムの構築と温度校正方法の検討,色素の選定や吸着対策の検討を実施した.その結果,蛍光偏光法に基づいて加熱薄膜近傍の単相の液体中において二次元温度分布の可視化に成功し,この成果を関連する国内学会(伝熱シンポジウム,可視化情報シンポジウム)において発表した.このように本年度は課題遂行の基礎となる計測システムと手法を大まかに構築することができ,研究計画の円滑な遂行に向けて一定の進展が得られたと考える.一方で,年度後半には課題代表者の出産に伴う産休・育休により研究活動を中断することとなり,得られた温度分布に関する妥当性を十分に検証し,実際に気泡周りの温度場に適用するまでには至らなかった.そのため,次年度に計測の妥当性や精度評価を行うとともに,液体温度計測法としての適用範囲の拡張に取り組み,固液界面に存在する微細気泡周りの温度場に対して適用を試みる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,前年度に引き続いて (1) 単相の液体中においてエバネッセント波を用いた蛍光偏光法に基づく温度計測の妥当性・精度の検証を行う.また(2) 適用範囲の拡張を目標としてより幅広い温度範囲における温度校正を試みるほか,蛍光励起条件の最適化による時間分解能の向上に取り組む.更に(3) 固液界面における気泡生成に着手し,気泡周囲の温度場への開発手法の適用を試みる.具体的方法・留意点を以下に記す. (1) 前年度に一定の成果が得られた蛍光偏光法に基づく温度計測について,妥当性と精度の検証を行う.具体的には,マイクロ流路底面に敷設した薄膜電極周りの温度場を対象とした二次元分布計測を行い,数値計算結果との比較により妥当性を示す.また温度校正の再現性を確認し,繰り返し測定に基づいて計測精度を示す.検出系の簡略化に向けて偏光カメラの導入も検討しており,この場合も同様に妥当性・精度検証を行う. (2) 計測法の適用範囲の拡張に取り組む.沸騰現象への適用を念頭に温度校正範囲を広げるため,現在のペルチェ素子を用いたシステムとは別にITO電極などを用いた新たな温度制御システムの導入を行い,偏光度に基づく温度校正実験を行う.また,動的な温度場への適用を念頭に,微弱な蛍光信号をmsオーダーの分解能で検出することを目指し,全反射の入射角度の調整やプラズモン共鳴の利用などによる励起の最適化を検討する. (3) ナノバブルなどの比較的低温で固液界面に安定的に存在する微細気泡もしくは,加熱により流路内に生じる比較的サイズの大きい気泡などをターゲットとして,気泡周りの定常な温度場に対して計測法を適用する.そのために気泡生成方法を確立し,必要に応じて観察部周囲の光学系の改良を行う.気泡が存在することによる干渉縞や散乱光の発生,気液界面への色素の吸着等が計測上の課題となる可能性があり,これらについて詳細に検証する.
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Causes of Carryover |
課題代表者の出産に伴う産休・育休のため本年度9月~3月の間は研究活動を中断した.そのため2021年度は,固液界面における気泡生成や気泡周囲の温度場への計測の適用には至らず,気泡生成のためのシステムの構築や,気泡導入に伴う光学系の改良のために予定していた費用が未使用のままとなった.また,休業に伴い国内外の学会への参加機会が減ったため当初の予定よりも学会参加費等が抑えられ,その結果として次年度使用額が生じることとなった.来年度分として請求した助成金は,本年度達成できていない気泡生成システム構築や光学系の改良のために使用するほか,幅広い温度条件での校正を可能にする温度制御システムの導入や,国内・国際学会における成果発表のための旅費や参加費として使用する予定である.
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