2022 Fiscal Year Research-status Report
中規模量子コンピュータにおける量子演算精度向上手法の研究
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21K14198
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
三木 拓司 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 准教授 (60754629)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 量子コンピュータ / NISQ / センサー / AD変換器 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子誤り訂正を行わないNISQ型の中規模量子コンピュータにおける量子演算精度の向上を図るため、本研究では、量子ビット近傍のノイズを高精度にセンシングし、そのノイズ量を基に演算誤差の補正を行う手法の検討、および、シミュレーション機構の構築を行う。令和4年度の研究実績は、量子ビット近傍の温度や制御回路からの電気的雑音等、量子ビットに影響を与えうるノイズ情報を取得する高精度センサーの実現可能性を探るため、ノイズセンサー回路の要素回路であるアナログ・デジタル変換回路(AD変換器)の試作と評価を行った。本AD変換回路の性能は、研究協力者へのヒアリングを基に策定した分解能・帯域を満たすとともに、希釈冷凍機内への配置を想定した極低温動作、および、小面積・低消費電力性能を達成する必要がある。昨年度に設計した小型・低消費電力AD変換器アーキテクチャの試作チップについて、室温での機能・性能評価を実施し、正常に動作することを確認した。しかし、極低温での動作に向けて、回路仕様の変更や制御回路の機能拡張が必要となったため、本年度に改良版のチップ試作を再度実施した。令和5年度も極低温AD変換器回路の評価を継続し、量子ノイズセンサーの実現可能性を模索する予定である。また、本年度は、ノイズセンサーで得られた量子演算誤差を補正するシミュレーション環境を構築するために、量子ビットの動作モデルの調査とソフトウェアによる実装を行った。まずは、文献調査と有識者へのヒアリングを実施し、スピン量子ビットのモデル化と各種ノイズによるスピン操作誤差に関する知見を得た。その後、ソフトウェアによる量子ビットモデリングの実装に着手した。当該年度では、基本的な量子操作に関するシミュレーションモデルを実装するとともに、最終年度に向けた量子演算誤差補正シミュレーションの基本機構を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画では、令和4年度(2年目)において、量子ビット近傍のノイズ環境を高精度に取得するセンサー回路の評価と、量子ビットのデバイスモデルの構築を計画した。現在までの進捗としては、小型・低消費電力ノイズセンサー回路の設計が完了し、初期評価を行うことができたが、極低温下での動作検証までには至っていない。この理由として、極低温動作を行うにあたり、ノイズセンサー回路の仕様変更や機能拡張が必要になったことから、再度チップ試作を実施することになったためである。さらに、近年の半導体需要増加の影響により、ファウンドリ企業のチップ試作機会が減少し、本チップ試作が大幅に遅れたため、極低温評価は来年度に繰り越すこととなった。しかし、基本的な回路動作に関してはすでに評価が完了しているため、来年度中に極低温動作検証の完了は可能と考える。一方、量子演算誤差補正のシミュレーション環境を構築するための量子ビット動作モデルの設計も進めており、本年度はスピン量子ビットの制御に係る物理メカニズムの理解と、古典制御によるスピン操作の動作モデルの構築を行った。量子ビットモデルの作成については、シリコンスピン量子ビットの物理実験に精通している研究者と議論を重ねることで知見を獲得し、本年度は基本量子演算モデルとそのシミュレーション環境を構築した。本量子ビットモデルは回路シミュレータ上での動作を想定しており、来年度にはノイズが加わった際の量子演算誤差をシミュレーションする枠組みを構築し、量子ノイズセンサーと組み合わせた統合シミュレーション環境を作成する。以上の状況から、ノイズセンサーの評価における遅延は来年度に十分補うことができると考えており、また、統合シミュレーション環境構築に向けた量子ビットモデリングの実装は順調に進められていることから、進捗状況はおおむね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度(3年目、最終年度)は、NISQ型量子コンピュータにおける量子演算精度の向上を図るために、量子ビット近傍のノイズを取得するセンサーから得られたノイズ情報を基に量子演算誤差を推定および補正する手法を確立し、量子ビットモデルを用いたシミュレーションにより本手法の有効性を実証する。まずは、量子ビット近傍ノイズを取得するセンサー回路の実現可能性を示すために、令和4年度に試作したノイズセンサー回路の極低温評価を引き続き実施する。令和5年度には、研究実施者が所属する研究組織において極低温評価用の装置が導入される予定であり、ノイズセンサー回路の極低温測定にも積極的に活用することで本回路の評価を加速する。また、量子演算誤差補正のシミュレーション環境構築に向けた量子ビットデバイスのモデリングとソフトウェア実装を引き続き行う。特に、制御信号にノイズが含まれる際の量子ビットの挙動に関して調査を行うとともに、ノイズによる量子演算誤差モデルを組み込んだシミュレータを開発する。さらに、ノイズセンサーで取得するノイズ情報を量子演算シミュレーションに組み込み、量子演算誤差の推定と補正により演算精度の向上を検証する。本手法が実現することで、誤り訂正符号を適用することなく、量子演算精度の向上が期待できるため、小規模から中規模の量子ビット数で構成される量子コンピュータにおいてもその応用範囲を拡げることが可能である。また、最終年度は、本研究で得られた成果を報告書にまとめるとともに、学会発表や学術論文を通じて本成果を発信する。
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Causes of Carryover |
令和4年度に計画していたチップ試作について、近年の半導体需要増加の影響で試作タイミングが遅れた。その影響で、チップ測定に係る評価ボードの製造および電子部品の調達を次年度に持ち越すことになった。従って、次年度はこれらの購入を行い、計画通り予算を使用する予定である。
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