2021 Fiscal Year Research-status Report
Improvement of current density and DW velocity based on RE-TM nanowire for 100Gbps
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21K14202
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Research Institution | Toyota Technological Institute |
Principal Investigator |
RANJBAR Sina 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), ポストドクトラル研究員 (30880174)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 磁性細線メモリ / 電流磁壁駆動 / 希土類/遷移金属合金・多層膜 / 高速磁壁駆動 / データレート / ジャロシンスキー守谷相互作用 / マルチビット / 無磁界レーストラックメモリ |
Outline of Annual Research Achievements |
レーストラックメモリは、磁性細線上に記録磁区を形成し、細線に電流を印加すると記録磁区を移動する。これを順次繰り返し記録することで所望データを記録する。したがって、電流で磁壁を送るときの磁壁の移動速度によってデータ転送レートが決まる。ビッグデータ時代に低消費電力のメモリは必須であり、レーストラックメモリはその一つの候補になっている。しかし、従来のフェロ磁性材料を用いたレーストラックメモリでは、磁壁の移動速度が100m/sec程度と遅く問題となっていた。この速度で5Gの20Gbpsを達成するためには、最短記録磁区長が0.5nmとなる。これは原子2個分の長さであり、記録磁区形成は不可能である。最短磁区長は100nm必要なので、20Gbpsを達成するための目標磁壁移動速度は2000m/secである。将来的に転送レートを100Gbpsとするための目標磁壁移動速度は10km/secとなる。 このような磁壁移動速度を達成するためには角運動量補償組成が容易に作成可能な希土類・遷移金属合金が最適である。そこで、角運動量補償組成による電流磁壁駆動速度向上を目指した。磁壁駆動電流に外部磁界を利用する方法が提案されているが、これは実用的ではない。磁界を利用せずに電流磁壁駆動速度を向上する必要がある。これを実現するためにはパルス幅を3nsecにする方法が必要であることを見出した。パルス幅が30nsecと長くなると、ジュール熱で細線中央の温度が細線エッジよりも高くなり、細線中央の磁壁が速く動くため磁壁形状が丸くなる。丸くなると磁壁駆動量であるスピン軌道トルクが小さくなる。このため、パルス幅を長くすると磁壁移動速度が遅くなることを世界で初めて見出した。自直線記録磁壁が電流駆動で丸くなると、磁区列の長さを維持できているにも関わらず、データ再生時には前後の記録データクロストークが生じるためデータ破壊となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本提案はレーストラックメモリにおける電流による高速磁壁駆動で、今年度の磁壁駆動速度目標は外部磁界の助けを借りることなく2000m/sec以上を達成することである。電流磁壁駆動速度を高めるためには角運動量補償組成を調整しやすいGdFeCo希土類・遷移金属合金を利用した。磁壁駆動速度は確かに、角運動量補償組成付近で速度は3000m/sec近くまで向上でき、目標値は達成した。もっとも大きな発見は、駆動電流パルス幅を狭くすることであった。パルス幅3nsecの磁壁移動速度は、パルス幅30nsecに比べて2倍高速であることがわかった。この原因を調べるために偏光顕微鏡で磁区形状を観察すると、3nsecの場合には記録磁壁形状は記録時のストレート磁壁のままであったが、パルス幅30nsecと長くなると記録時のストレート磁壁が丸く変形していた。これは熱計算の結果、パルス幅が短い場合には、細線中央と細線エッジの温度差が小さく、細線中央と細線エッジとで同じ磁壁駆動力でストレート磁壁がそのまま動いたと考えられる。しかし、パルス幅が30nsecと長くなると細線中央の温度が細線エッジよりも高くなるため、磁壁駆動条件が細線中央と細線エッジで差が大きくなる。これにより細線中央の高温部では磁壁が動きやすく細線エッジの温度上昇の少ないところでは磁壁が動きにくく、電流駆動後の磁壁形状が丸くなったと考えられる。 上記測定を試料のステージ温度を変えて行った。驚いたことに角運動量補償温度を外れると、磁壁移動速度は急激に減少すると考えられたが、実験事実では磁壁移動速度の減少は少なかった。レーストラックメモリはキャッシュメモリとしての応用が期待されているため、キャッシュメモリの動作温度範囲である40℃~70℃で実験してみると、磁壁移動速度差は1200m/secで変動はほとんどなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では、磁壁移動速度のさらなる向上と、長いパルス幅による磁壁移動速度の低下を回復する手段を検討する。 磁壁移動速度向上策としては、GdFeCoの組成比の再検討を行う。Gdのg因子は2.0、Feのg因子は2.06、Coのg因子は2.2なので角運動量を完全に補償することはできない。この中で希土類と遷移金属の角運動量補償に近いのはGdFe、最も離れているのはGdCoである。GdCoの角運動量補償に近い実験では磁壁移動速度は最速でも1500m/secでGdFeCoを用いた本実験の速度より遅い。この理由としてFe75Co25合金ターゲットを使ったため、GdFe組成に近くなったことが考えられる。すなわち、GdFeは最も角運動量補償に近い。したがって、GdFe磁性細線であれば、更に磁壁移動速度を向上できる可能性が期待できる。 今までの磁性細線幅は3μmと広かった。細線幅が広いと電流印加によるジュール損失による発熱分布は細線中央と細線エッジで大きく開く。したがって、細線中央と細線エッジの温度差を無くすためには、細線幅を狭くすることである。そこで、細線幅を変えた試料をいくつか作成し、電流密度とパルス幅をパラメータとした電流磁壁駆動実験を行う。磁性細線幅を狭くすることでパルス幅の差による磁壁移動速度の差が解消されるはずである。また、細線を細くすると細線中央と細線エッジの温度差が更に小さくなり、磁壁移動速度が更に向上することも期待できる。ただし、細線幅を狭くすると現在の偏光顕微鏡では磁壁形状を詳細に観察することができなくなる。そこで、HDDのTMRヘッドを使った高分解能磁区観察装置を使って、記録時、電流駆動後の磁壁形状の詳細な観察を行う。 上記検討により最終目標100Gbps達成を目指す。(最短磁区長100nm⇒磁壁移動速度10km/秒、最短磁区長50nm⇒磁壁移動速度5000m/秒)
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Causes of Carryover |
GdFeCoの組成をいくつか変えた実験を行うために、組成の異なる合金ターゲットをいくつか購入する。また、今年度の計画に記したように磁区形状観察のためTMRヘッドを利用した特殊測定を行いたいが、これは精密測定器であり熟練した操作が必要となる。そこで、熟練した技能を有する当研究室の研究補助員に測定依頼する。
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