2021 Fiscal Year Research-status Report
におい識別に向けた金属酸化物メモリスタによるセンサ時系列データ処理技術の基盤構築
Project/Area Number |
21K14211
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Research Institution | Toyama Prefectural University |
Principal Investigator |
岩田 達哉 富山県立大学, 工学部, 講師 (80735639)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 金属酸化物メモリスタ / センサ時系列データ / におい識別 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、メモリスタの基礎特性評価として,セット特性およびセット直後の抵抗状態に着目し,素子構造を様々に変化させた素子の特性を評価し,素子構造に基づく特性制御に関する知見を得ることを試みた.一方で,実際にガスセンサ時系列データをメモリスタへ入力し,得られたメモリスタの抵抗値パターンからガス識別を試み,メモリスタの時系列データ処理デバイスとしての応用可能性を実証することにも取り組んだ. セット特性に関しては、TaOx/TiOy積層型メモリスタにおいて,TiOy層の組成を様々に変えた素子のセット特性を評価したところ,いずれの素子においてもアナログセットが見られた.さらに,中間的な酸素組成を有する素子においては,セット時に量子ポイントコンダクタンスに起因すると考えられる電流挙動が見られた.これらは、界面組成にの違いに起因して生じる、狭窄領域の形成の有無、および全抵抗成分に対するTiOy層の直列抵抗成分の寄与の大きさの違いとして解釈された.結果として,本研究における素子においてアナログセット特性が発現することがわかり、このセット特性に対してもTiOy層の組成が大きく影響し,特性制御が可能であることが分かった. 一方,メモリスタを用いたセンサ時系列データ処理に関しては,種々の試験ガス(エタノール,アセトン,酢酸ブチル)に対し,ガスセンサの駆動温度を様々に変え,時系列データを入力したところ,異なるメモリスタ値が得られた.すなわち,センサ駆動温度を変えることで同一のセンサを仮想センサアレイとして駆動し,そのセンサ時系列データの特徴量をパターンとして得ることに成功した.そして,同様のパターンを試験ガスごとに取得したところ,異なるパターンを得ることができ、メモリスタによるの特徴量パターン取得に関してもその応用可能性を実証した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、実験的アプローチによりメモリスタの詳細なセット特性を明らかにするとともに、メモリスタの特徴量パターン取得に関する応用可能性を実証した。今後、メモリスタの特性をシミュレーションし、シミュレーションベースで特徴量抽出に適したメモリスタの特性を明らかにしていくことになるが、より実デバイスに近い特性を再現する点で、本年度得られた成果は今後の展開に重要な知見である。特に、特性を複数種類の素子について得ており、特性に影響する物理パラメータの抽出とそのプロセス条件との関連を明らかにするために必要な知見が得られている。このように、次年度に行うシミュレーションをベースとしたモデルパラメータの検討に必要となる実験データが得られた。なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、豊橋技科大で行うことを計画していたメモリスタ素子の作製ができなかったが、すでに作製していた試料を用いることで、種々の異なるメモリスタの特性データを取得した。 一方、シミュレーションのコード実装も並行して行っており、メモリスタの特性を再現するには至っていないものの、次年度中にメモリスタの特性再現並びに各素子における物理パラメータの抽出に取り組む見込みが立っている。また、ベイズ最適化についても基本的なコードの実装は完了しており、パラメータ最適化用に修正を加えることで実行可能な状態にある。これらの状況を踏まえ、次年度にメモリスタのパラメータ抽出およびセンサ時系列データからの特徴量抽出に対するパラメータ最適化まで行うことは十分可能であると考え、進捗はおおむね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
R4年度は、主にシミュレーションベースの検討を進める。まず、メモリスタの特性を既存のモデルに基づき再現し、パラメータを調整することで本研究で使用している実デバイスの特性に合わせこむ。これにより、各作製条件における素子のモデルパラメータを抽出する。その際、特性にうまく合わない場合は、モデルを一部修正しながら検討を進める。また、必要に応じて実験データを増やしつつ、ばらつきを考慮した特性に合わせこむことで、抽出パラメータの妥当性を確保する。一方で、センサ時系列データの特性を測定データを基にモデル化し、これをメモリスタへパルス電圧列として印加したときのメモリスタ抵抗値をシミュレートする。この時、センサ時系列データの特徴量をよく得られるメモリスタのモデルパラメータを明らかにする。最適化にはベイズ最適化を利用し、そのためのセンサ時系列データ(センサ過渡特性)のモデル化並びにコーディングを進める。また、当初、複数素子のメモリスタを使用し、センサ時系列データの特徴量をパターンとして取得することを計画していたが、機械学習アルゴリズムを参考に、メモリスタ1素子で特徴量パターンを得られる手法を開発することも視野に入れつつ、研究を進める。これらの検討に基づき、センサ時系列データ処理に適したメモリスタのモデルパラメータを明らかにするとともに、その決定指針を構築する。なお、メモリスタの特性制御については、新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、可能な範囲で豊橋技科大で試作を行い検討するが、困難な場合は、すでに作製した試料を使用して構築したシミュレーションモデルの妥当性を確認する。
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Causes of Carryover |
当初計画では、スパッタリング装置の構築に係り、スパッタリングカソードとRF電源、マスフローコントローラを購入予定であったが、これを変更し、より重要度の高い基板加熱・回転電源とRF電源を購入した。これらに約150万円の費用を要し、残額の関係からR3年度中のスパッタリングカソードの購入が困難となったため、R3年度の未使用額と合わせこれをR4年度に購入することとした。それに関連し、スパッタリングターゲットならびにマスフローコントローラもR3年度の購入を見送った。これらの理由から次年度使用額が生じた。 R4年度は主にスパッタリングカソード、スパッタリングターゲットの購入に使用する計画である。また、マスフローコントローラの購入は経費残額を考慮しつつ検討する。
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