2021 Fiscal Year Research-status Report
合理的な耐風設計のための地表面付近の設計風速の提案
Project/Area Number |
21K14237
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Research Institution | Building Research Institute |
Principal Investigator |
高舘 祐貴 国立研究開発法人建築研究所, 構造研究グループ, 研究員 (20848311)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 設計風速 / 風速の鉛直分布 / 風洞実験 / 数値流体解析 / 地表面付近の風速 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,風洞実験及び数値流体解析を用いて平成12年建設省告示第1454号(告示1454号)や日本建築学会の建築物荷重指針・同解説(荷重指針)等で一定値とされている地表面付近の設計風速(主流方向の風速の鉛直分布)を検討し,その評価方法を提案することである。 建築物に作用する風荷重は空気密度と建築物の基準高さにおける設計風速によって得られる速度圧に風力係数と荷重負担面積を乗じることによって計算される。告示1454号や荷重指針における風速の鉛直分布は既往の実測等に基づき,べき指数を用いた形で与えられている。しかし,低層建築物等で重要となる地表面付近の風速は高さZb以下で一定値として与えられている。これは,地表面付近の風速性状が複雑であるためモデル化が困難であることから,安全側に設計風速を設定したためと考えられる。実際は地表面摩擦の影響で風速が低くなることから,対象とする建築物によっては過大な風荷重を要求する可能性がある。特に,建築基準法では四号建築物の耐風設計が義務付けられていないことから,低層建築物に対して安全かつ合理的な耐風設計を行うためには地表面付近の設計風速を適切に与える必要があると考えられる。 本年度ではこれまで建築構造分野ではあまり検討されていない地表面付近の風速について風洞実験及び数値流体解析を用いて評価し,粗度のある地表面付近の流れ場の性状を把握するとともに,平坦とみなせる場所での地表面付近の設計風速の考え方の整理を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は風洞実験及び数値流体解析で粗度ブロック周りの風速を測定し,平均風速や気流の乱れといった風速の性状を検討した。風洞実験では粗度ブロックを一様配置または千鳥配置として,それぞれ粗度ブロックの配置間隔を4パターン変化させて高さ方向に主流方向の風速を測定した。その結果によると,地表面に近づくほど平均風速は小さくなり気流の乱れ強さは増加する傾向があり,配置間隔が狭いほどそれらの影響は大きいものとなった。また,風速の測定位置が粗度ブロックの真後になると,風の遮蔽効果によって風速や気流の乱れ強さが大きく変化し,粗度ブロックの高さより低い範囲ではほぼ一定となることが分かった。こうした測定位置による影響は大きいものの,変動風速の詳細な性状は測定位置によらず一定の傾向を示すことが分かった。風洞実験で得られた結果の一部はAdvanced Experimental Mechanics Vol. 7(査読有)に投稿し採択が決定されている。また,日本風工学会年次大会,日本建築学会大会でも報告予定である。 風洞実験では測定機器の制約のため風速の同時測定や逆流による風速成分の評価が困難である。そこで,風洞実験を模擬した数値流体解析モデルを構築した。風洞実験を再現できる解析モデルを用いて,風洞実験では困難だった建築物の高さを変化させたときの風速性状について検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,風洞実験および数値流体解析を用いて地表面付近の風速分布について検討を進めているが,風洞実験では熱線風速計等の測定機器が流れ場に影響を与えてしまう可能性があるだけでなく,空間内の風速データを離散的に取得することとなる。一方,数値流体解析を適切に用いることができれば,測定機器の影響を排除できるだけでなく空間的な風速データを同時に取得できる。また,風速を3方向のベクトルで評価することができるため,地表面付近の流れ場を検証する上では極めて効果的である。さらに,風洞実験と比べて粗度ブロックの大きさや配置パターンの変更等も容易であるため,数値流体解析を用いた流れ場の検討を中心に地表面付近の風速性状を明らかにしていくことを考えている。 並列計算機の整備が遅れた場合は数値流体解析による検討が十分に行えないことも考えられる。その場合は,風圧測定模型を作製して風圧測定実験を行うことを想定している。低層建築物等の強風被害を防ぐためには風速の検討だけでなく,建築物に作用する風圧の大きさも重要となる。現行の設計基準では建築物の軒高風速を用いて建築物に作用する風圧係数を定義しているが,建築物の高さZb以下の風圧も風速と同様に一定値とされている。建築物に作用する風圧分布の高さ方向の性状を調べ,建築基準法の告示基準や日本建築学会の建築物荷重指針・同解説(2015)の高さ方向の風圧分布と対応させて考えることで,低層建築物の安全かつ合理的な耐風設計法について検討を進める。
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Causes of Carryover |
研究初年度の前期に計算用ワークステーションを購入し並列計算用のシステムに組み込む予定であったが,納入業者の見積り作業及び計算機の部品の納期に大幅な遅れが生じたため,研究初年度は計算用ワークステーションの購入のみとして並列計算システムの構築を見送った。また,大幅な遅れが分かった段階で風洞実験用の模型の作成又は風洞実験の外注をする代案も考えていたが,当研究所では1月以降に研究費の使用ができないため,発注を次年度に見送らざるを得なくなり次年度使用額が生じることとなった。 並列計算システムの構築については,初年度時点で見積もりを依頼しているため仕様が確定したら納入予定であるが,この見積りや納期等が合わず並列計算システムの構築を見送ることになった場合は,風圧測定用の風洞実験模型又は市街地模型の作成を外注し,風速および風圧測定実験をメインとした検討を通して低層建築物に作用するべき設計用風荷重の検討を進めることを考えている。
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Research Products
(2 results)