2022 Fiscal Year Research-status Report
A study of the characteristics of the architectural practices of Renaissance Sculptor-Architect
Project/Area Number |
21K14339
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Research Institution | Okayama Prefectural University |
Principal Investigator |
岡北 一孝 岡山県立大学, デザイン学部, 准教授 (00781080)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ルネサンス / 建築模型 / マイクロ・アーキテクチャー / ミニチュア建築 / 彫刻 / 建築メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
3カ年計画の2年目となる2022年度において、もっと重要な成果はマイクロ・アーキテクチャーに関する論考と口頭発表である。 研究実績における重要な成果の一つはマイクロ・アーキテクチャーの定義に関するものである。そのうちに入る分かりやすい事例は、いわゆるミニチュア建築(建築と彫刻の中間に位置する作品群)である。すなわち、噴水、祭壇、墓廟、幕屋、天蓋、説教壇、洗礼盤、石棺、聖遺物箱などのなかで、建築の形態を模したものである。しかし、マイクロ・アーキテクチャーは、三次元の制作物に限らないとされるのが一般的である。つまり、それは紙の上の建築表象も包含する。例えば、写本の挿絵の中の建築や、印章の中の建築もマイクロ・アーキテクチャーとして扱われる。つまり表現の形式に限定されない建築の表象の世界が、その言葉で呼ばれている。 次に重要な成果は、マイクロ・アーキテクチャーの建築創作における役割の一端を明らかにしたことである。マイクロ・アーキテクチャーには、一部の聖遺物容器のように、教会堂一つの建設に匹敵する、あるいはそれを凌駕する資金が投入されることがあった。小ぶりなものであっても、究極の技術と素材で形作られたからこそ、その形式やイメージが広く伝播し、建築のかたちを伝える強いメディアとなった。また一方で、ほとんどのマイクロ・アーキテクチャーは、建築とは比較にならないくらい限られた予算、期間で制作可能であった。注文主が自らの邸宅や菩提寺に新しい装飾や建築言語を導入する際に、仕事を任せる芸術家の腕前や仕上がりを判断するための一つの資金石となった。つまり、この芸術は中世に限らず、近世以降の美術・建築でも重要なメディアであった。中世に成熟したこの特徴的な造形物は、ルネサンス期に入ると、古代の形態・形式の伝播の一端を担い、また彫刻家・石工が建築家として数多くの建築を残すことになる一因にもなったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度もコロナ禍によってイタリアに渡航しての調査が叶わなかったため、現地での作品観察や、美術館等の所蔵品の調査などの進捗は思わしくない。一方で、先行研究や、マイクロ・アーキテクチャーの一部とも言える、絵画の中の建築、テクストの中の建築(建築エクフラシス)、建築模型に関する研究の展開はある程度順調に進んでおり、現地調査を補完しつつ、本研究テーマを進めている。 また、2023年3月にローマに滞在する機会があり、関係機関を訪れ、現地での調査を行える目処が立ったため、2023年度は現地調査を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
オンライン空間でも研究者同士の打ち合わせや、ディスカッションを無理なく効率的に行えるようになったことをさらに活用し、日本全国のみならず、ヨーロッパ、アメリカなどの研究者とも、マイクロ・アーキテクチャーや建築と彫刻の関係などについて、意見交換や情報共有をすすめ、研究の効率化と成果の質の向上 を目指す。 2022年度には、ローマ・トル・ヴェルガータ大学の建築史研究者(Maria Grazia D'Amelio氏とLorenzo Grieco氏)と知己を得て、本研究へのアドバイスや資料提供を受けることができた。また本研究に関連する共同研究や研究会を開催する計画を立てており、綿密な研究交流を通じて、本研究の進展や研究成果の公表につなげていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大のため、またその感染症予防のために、予定していた海外での実地調査が行えていないことが大きく影響している。また国内の移動も難しく、研究打ち合わせや研究会等も全てオンライン実施となったことも理由の一つである。 具体的な作品分析のために必要な文献資料も図書館、文書館調査が行えていないこともあり、見定まっていない。一方で、海外調査ができる段階になれば、速やかに実行できるように、準備は進めている。 なお、繰越金額については、海外での調査日程を2023年度に長めにとることにより、消化する予定である。
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