2021 Fiscal Year Research-status Report
第一原理多電子計算と機械学習を用いた蛍光体の狭帯域発光と局所構造の関係の解明
Project/Area Number |
21K14408
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
竹村 翔太 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, NIMSポスドク研究員 (00889917)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 第一原理計算 / 発光半値幅 / 局所構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
ディスプレイの色域拡大のために、発光線幅の狭い狭帯域蛍光体が要求されている。Eu2+蛍光体の材料探索では、Eu周りの局所構造が発光線幅の大小の大部分を支配していると考えられているが、その局所構造と発光スペクトルの半値幅の関係については未解明であり、その因子を理論的に解明することが最重要である。 本研究では第一原理配置間相互作用計算を行い、得られた電子状態パラメータの中から発光線幅と相関のあるパラメータを見つけることを目的とした。ます、賦活されたEuの配位構造と発光半値幅の対応を明確にするため、Eu2+の置換サイトが1種類である既知Eu2+蛍光体30個について、文献等から実験的な発光半値幅の収集を行った。次に、それらの結晶構造データから、Euの置換サイトとなるアルカリ・アルカリ土類金属イオンを中心として、その第一近接配位子からなるモデルクラスターを作成し、計算には、中心金属イオンをEuに置き換えたものを使用した。多電子系の取り扱いが可能な第一原理配置間相互作用計算によって、Euにおける4f-5d遷移の計算をおこなった。 考察に用いるエネルギーとして、4f-5d遷移エネルギー、4f軌道および5d軌道の結晶場分裂エネルギー、基底多重項状態の8S7/2における分裂エネルギー、最低励起状態を基準とした励起多重項エネルギーを用いて、発光半値幅との相関を考察した。 結果として、発光半値幅の大きさと、それらのエネルギーとの相関は見られなかった。ボルツマン分布による電子準位と存在確率から、発光が起きるときには最低励起準位まで緩和されていると考えられるため、エネルギーの低い励起状態の準位構造と発光半値幅が相関が得られると思われたが、これらの結果より、電子エネルギー準位構造と発光半値幅は相関しておらず、構造的な他の要素の寄与が大きいことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
蛍光体の励起発光現象は、一般に賦活された原子周りの局所構造が持つ電子状態で説明されることから、Eu2+蛍光体の発光半値幅とそのエネルギー構造には相関があると推測していたが、多電子計算による詳細な解析結果では、期待された相関は得られなかったため、研究の進行が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
Eu2+蛍光体における発光半値幅とそのエネルギー構造には相関があると推測していたが、相関は得られなかった。これは結晶構造データから切り出した局所構造を計算に用いていたためと考えられる。今後の方策としてエネルギー構造以外の電子状態パラメータとの相関を調査すること、さらにより精度の高い計算条件を用いた計算を行い、電子状態パラメータを取得することなどが考えられる。賦活されたEu2+が結晶中の原子と置換する際にイオン半径の差から構造緩和が起きるため、その緩和を考慮した計算を行う。またエネルギー構造から得られる電子状態パラメータだけでなく、共有結合性や結合次数などのパラメータも考慮する。それら計算によって蓄積したデータから、機械学習を用いた回帰分析、主成分分析を行う。また、それらの方策によって相関が得られない場合、電子状態以外にも格子振動の影響なども調査する必要があると思われる。
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Causes of Carryover |
研究の進行の遅れにより、成果発表に対する費用に余剰が出たため。次年度の使用計画として、成果発表のため、学会発表の旅費及び論文投稿費として使用する。
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