2023 Fiscal Year Research-status Report
機械学習による有機無機複合ナノシート膜の表面濡れ性制御と高効率液体輸送技術の開発
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21K14420
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
都倉 勇貴 信州大学, 繊維学部, 研究員 (60881688)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 濡れ性 / ナノシート / 層状化合物 / 有機無機複合物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
様々な液体を滑落させる撥液コーティングは、防汚性や液体輸送などの観点から多様な分野で注目されているが、その設計には予測や制御が困難な表面エネルギーと表面構造の制御が必要であるため、研究者の経験や膨大な実験が必要とされている。本事業では有機修飾無機ナノシート薄膜を設計し、機械学習を活用することで、撥液ナノシート薄膜の形成を目的としている。 本年度は、長鎖アルキルアミンを修飾したチタン酸ナノシートコロイドを用いて、スピンコートによる薄膜を形成した。スピンコートの条件を検討した結果、回転数が小さいと水接触角が60度、水転落角が80度と水滴が滑落しにくい一方で、回転数を大きくすると水接触角が50度と若干減少するにもかかわらず、水転落角が60度と滑液性が向上する傾向にあることを明らかにした。また、表面張力が小さい有機溶媒液滴に対しても同様に、回転数を大きくすることで接触角が小さくなるにも関わらず、低い転落角で滑落することを見出した。修飾するアルキルアミンの鎖長を比較したところ、水滴や有機溶媒液滴の接触角・転落角に大きな変化がないことを明らかにした。 さらにホスト層をチタンからマンガンに変えて、長鎖アルキルアミンをインターカレーションした層状マンガン酸から、長鎖アルキルアミン修飾マンガン酸ナノシートの合成および薄膜形成を検討した。その結果、マンガン酸ナノシートを用いても、チタン酸と同様の接触角および転落角で、水滴や表面張力の小さい液滴を滑落させることを見出した。一般的に、液滴を滑落させるために、接触角が150度以上の超撥水・超撥油膜が用いられるが、本研究ではアルキルアミン修飾無機ナノシートを活用することによって、接触角が小さいにもかかわらず、液滴を滑落可能であることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、長鎖アルキルアミンを修飾したチタン酸ナノシートを用いて、スピンコートによる薄膜形成の条件や、アルキルアミンの鎖長に関して、濡れ性指標のうち、静的な状態を表す接触角と動的な状態を表す転落角の評価・検討を行い、分析が終了している。また、ホスト層をチタンからマンガンに変えて、同様の評価・検討を行い、水滴や表面張力が小さい液滴を滑落可能な薄膜の形成に成功している。この結果から、ホスト層を変えても、長鎖アルキルアミンを修飾したナノシートを用いて薄膜化することで、接触角が小さいにも関わらず、水滴や有機溶媒液滴を滑落可能であることを見出した。これは本事業で目標としていた、様々な液体を滑落できる有機-無機ナノシート薄膜となっており、大きな進展である。現在、さらに他のゲスト分子・ホスト層の検討を行っている。以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで完了した検討に引き続き、アルキルアミン以外のゲスト分子や、ニオブ酸・タングステン酸といった他のホスト層を用いて、さらに低い転落角を有するナノシート薄膜の設計に取り組む。これらの結果を基に、ホスト層の物性値・ゲスト分子の物性値・滑落対象液滴の物性値・接触角などの要因から、機械学習と研究者の経験を活用することで、有機修飾ナノシート薄膜上における液体の滑落性に重要な因子を抽出し、液滴の滑落性を制御可能なモデルの構築を行う。さらに、これまで得られた知見を活用して、様々な有機修飾ナノシートを用いて基板表面に撥液性のパターニングを形成することで、液滴輸送薄膜の開発に取り組む。
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Causes of Carryover |
当初計画で見込んだ物品額よりも安価で研究を進めることができた。また、ホスト層を変更して薄膜化する実験に当初見込んだ期間より時間を要してしまったため、予定していた発表を行わなかった。そのため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、令和6年度請求額と合わせて、消耗品・物品購入や得られた成果の学会発表、論文発表に使用する計画である。
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Research Products
(1 results)