2022 Fiscal Year Research-status Report
軟質フェライトを有効活用した高強度複相組織鋼のさらなる高強度・高延性化
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21K14423
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 登志男 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (10708910)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フェライト / 再結晶 / 初期組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 転位組織の定量情報と再結晶挙動の関係 本年度は、転位性格の異なる純鉄の再結晶挙動を定量評価・比較することで、転位性格の差異が再結晶挙動におよぼす影響を調査した。具体的には、転位密度はほぼ同等でありながら、らせん転位と刃状転位の比率が異なる2つの試料を作製し、それらの再結晶挙動を比較した。その結果、刃状転位の比率が高い試料の方が再結晶の進行は速くなり、特に再結晶後期段階において両試料の再結晶率の差が顕著になった。また、セルラーオートマトン法を用いた再結晶シミュレーションを行った結果、転位性格による回復挙動の違いと再結晶の駆動力の差をシミュレーションに反映させることで、実験結果を精度よく再現できることが示された。これらの結果から、再結晶挙動を精密に制御するためには、転位性格は考慮すべき一つの因子であることを明らかにした。 (2) フェライトの等軸化・微細化・硬化が機械的性質におよぼす影響 本年度は、Nbを添加したフェライト-マルテンサイト二相鋼 (DP鋼) を用いて、フェライトの形状や硬さを変化させたときの機械的性質の変化を調査した。供試材には、Nb無添加および添加鋼の二種類の低炭素鋼を用いた。また、冷延-焼鈍前の初期組織をフェライト-パーライトおよびマルテンサイト単相とし、機械的性質におよぼす初期組織の影響についても調査した。その結果、初期組織をマルテンサイトとしたNb添加鋼において、フェライトが最も等軸化・微細化した。また、それぞれの供試材の引張特性を調査した結果、初期組織をマルテンサイトとしたNb添加鋼の強度-延性バランスが最も向上した。これらの結果から、DP鋼におけるフェライトの適切な制御により、強度-延性バランスが向上することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
転位組織の定量情報と再結晶挙動の関係については、当初の計画通り解析を進めることができ、転位性格の違いが再結晶挙動に影響をおよぼすことを定量的に示すことができた。さらには、当初の計画に加えて組織シミュレーションの活用により、実験結果の妥当性を支持するシミュレーション結果も得られた。 また、DP鋼の引張特性とフェライトの硬さの関係についても、当初の計画通り解析を進めることができた。また、当初の計画ではV添加鋼を用いた実験を想定していたが、V添加鋼だけでなくNb添加鋼についても研究を進めることができ、その結果新しい知見を得ることができた。さらには、当初の計画に加えてフェライトの微細化・等軸化も同時に達成することができ、その結果想定以上に強度-延性バランスを向上させることに成功した。 以上のことから、当初の計画以上に研究が進んでおり、これまでの取り組みにより従来にはない新しい知見を得ることができた。また、得られた研究成果の一部は、既に学会などで報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた知見を基に、今後はまずNb添加型DP鋼におけるフェライトのさらなる等軸化・微細化・硬化を目指すべく、最適プロセス条件の探索を進める。具体的には「二段階焼鈍」を検討しており、昇温速度・一段階目の焼鈍温度および保持時間・二段階目の焼鈍温度および保持時間の最適化を図る。その後、フェライトが最も等軸化・微細化・硬化する二段階焼鈍条件にて材料を試作し、DP鋼のさらなる強度-延性バランスの向上を目指す。また、特に強度-延性バランスが向上した材料について、材料組織の詳細な定量解析、さらには引張試験により破断した試験片の破面およびボイド観察を行う。これにより、強度-延性バランスが向上したメカニズムについても検討を進めていく。さらに、得られた研究成果については、複数の学会にて報告する予定である。
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Causes of Carryover |
海外での国際会議に参加予定だったが、国内での国際会議への参加に変更したため、旅費として使用した金額に次年度使用が生じた。次年度は強度-延性バランスのさらなる向上に向けて、材料の試作費を中心として使用する。
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