2021 Fiscal Year Research-status Report
イオン交換膜電析法による製鋼スラグ抽出溶液からのリン酸回収
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21K14445
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
禹 華芳 東北大学, 工学研究科, 特任助教 (90880477)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 製鋼スラグ / イオン交換膜 / リン酸回収 |
Outline of Annual Research Achievements |
「イオン交換膜電析法」により製鋼スラグ抽出溶液に含まれる陽イオン群と陰イオン群を分離する実験のため、第1段階として試薬を用いて陽イオン(カルシウムイオン)と陰イオン(リン酸イオン)からなる単純な溶液での電析実験を行い、使用するイオン交換膜の限界電流などの確認や、供給流量の影響などの検討を行った。 実際のスラグ抽出溶液についての実験を行う前に、その最適な分離条件を検討するため、PHREEQC(水溶液平衡の計算ソフト)を用いて各種条件下で存在するイオン種の計算を行った。その結果、pHが5以上になるとリンイオンはヒドロキシアパタイトとして沈殿する。リンを電気透析法によってリンを分離するには陰イオンの状態で安定的に存在させる必要がある。そのためには、pHは5以下にする必要がある。また、強酸性にあるとイオン交換膜に障害がでるので、実験のpH範囲は3から5で行った。ケイ素はpHが6以下ではH4SiO4の形で安定であり、電気的中性を保っていることが明らかになった。これにより、リンはイオン交換膜を透過移動し、ケイ素は残留すると考えられる。 これらの計算結果にもとづき実際に、イオン交換膜電気透析法によりスラグ抽出液からのリンの分離条件(溶液濃度、pH、溶液温度、槽内の溶液流速、限界電流密度)を検討した。電気透析には電流上限があり、これより大きな電流を加えた際には透析効率が著しく低下する。この電流は限界電流密度と呼ばれていて、一般にこれより小さな電流で透析を行う必要がある。限界電流密度を測定したところ、約0.4mAであったため、実験中の印加電流は0.4mAにした。 現在、各種条件下で実験を行い、スラグ抽出溶液からリン酸イオンのみの分離し粗リン酸として回収するための最適条件を確立する実験を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電析実験は小型三槽型装置を用いて行った。ポンプを用いて中央の槽にスラグ抽出溶液500mLを流速1000mL/hで循環させ、抽出側のアノードおよびカソード溶液には電気伝導性を保つため十倍希釈のスラグ抽出模擬溶液を用いた。0.4mAの電流を1h, あるいは2hの間印加する実験を行った。その結果リンとケイ素はpH3~5の範囲で分離可能であることが分かった。中央に循環させていた溶液ではCa, Pの著しい減少が見られた。その一方でSiの濃度はほとんど変化していなかった。これらの結果から、事前のシミュレーションどおりアノード側にリンが、カソード側にカルシウムが濃縮しており、電気的中性であるケイ素は中央に残存していたと思われる。しかし、実際のアノード溶液のリン濃度と供給したリン濃度の間でマスバランスがとれていなかった。このことは、(1)移動したイオンは間のイオン交換膜にとどまっている可能性、(2)溶液中のケイ素がコロイドを形成し、このコロイドにリンが吸着した可能性が考えられる。ケイ素の存在による影響の検討をPHREEQCにより行ったところ、室温(25℃)の水に対するケイ素の溶解限は100ppm程度であり、超過分はすべてコロイド化し、溶液中に分散しているということが想定された。今後、この珪素のコロイド化を防ぐ条件を検討する。 これまで行ってきた実験において、実験計画と基本的に同じであり、研究の進め方に大きな変更は必要ない。
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Strategy for Future Research Activity |
イオン交換膜電気透析法による製鋼スラグからのリン酸回収の最大の課題は、スラグ抽出液に含まれる陰イオン群として分離した珪酸イオン、酸抽出で用いた酸に起因する塩酸イオンなどとリン酸イオンの三つの陰イオンを含む溶液から珪素イオンを含まないリン酸イオンを効率よく分離・濃縮することにある。そのため(1)ケイ酸イオンを効果的に分離する最適電気透析条件(溶液濃度、pH、溶液温度、槽内の溶液流速、限界電流密度)を検討する、(2)実際のスラグ抽出液には溶解に用いた硫酸などの酸が含まれている。これらの酸による陰イオンをリン酸イオンと分離するため、4級アンモニウム陰イオン交換樹脂およびハイドロタルサイトなどの層状化合物をカラム充填し、そこに陰イオン群を通過させ、リン酸イオンのみの吸着分離の検討とこれらの組み合わせによる最適化を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ感染拡大防止の関係で、2020年度対面の学会発表が実施しなかった。そのため、旅費として計上した経費は残った。また、リン酸イオン分離用の装置はレンタルにしたため、経費使用量も低減できた。その分について、来年度リン酸分離と濃縮実験に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)