2021 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカル超分子ビルディングユニット形成に立脚した多階層ナノ構造制御
Project/Area Number |
21K14477
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上沼 駿太郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (90891804)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超分子 / トポロジカル超分子 / ナノシート / 自己組織化 / シクロデキストリン / ブロックコポリマー |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究室ではごく最近、天然由来の環状オリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)と高生体適合性ポリマーを室温の水中で混合するだけで超分子性ナノシート材料(PPRNS)が形成されることを見出した。本研究では、形成・構造制御の方法論・理論の構築を目的として、サイズ・分布・組織化制御の実現を目指す。 PPRNSは自己組織化材料であるため形成と崩壊を可逆的に行うことが可能である。これは従来の無機ナノシートには無い利点の一つであり、PPRNSのドラッグデリバリー(DDS)材料として有用であることが期待される。DDS材料の崩壊速度は薬剤放出速度と強く関連するため、その理解や制御は極めて重要である。2021年度は主にPPRNSの水中への溶解挙動の解析に取り組んだ。PPRNSの溶解はまずCyDのみ1つずつ軸分子に沿って脱包接して、面外方向の溶解が生じる。次に軸上の複数のCyD積層体(CyDカラム)が軸分子ごとPPRNSから脱離して、面内方向の溶解が生じる。二種の溶解機構が段階的に生じることは極めて興味深く、これらの結果はPPRNSの構造制御ならびにDDS材料の設計指針になると期待される。 さらに我々はPPRNSの形成機構を理解することを目的に、軸高分子末端の官能基を変えて形成を開始し組成・構造の時間変化を追跡した。その結果、CyDとの会合定数が小さい官能基を軸末端に付与すると、形成速度劇的に遅延すると同時に、PPRNSを構成するCyDと軸分子のモル比(CyD[mol]/軸[mol])が大きくなることが見出された。今後メカニズム解明やDDS応用を指向した薬物内包などの実験も行う予定である。 またコーティング材料応用を指向して、PPRNSによる単層コーティングやその構造解析も行い、PPRNS上下に存在するポリエチレンオキシド(PEO)鎖がポリマーブラシ構造をとっていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、2021年度はPPRNSの水中への溶解挙動を、種々の構造解析を用いて多角的な視点から解析し明らかにした。二段階の溶解機構を詳細に捉えることができ、論文執筆にまで至ったことから、想定以上の成果であったと考えている。さらにこの描像をもとに新たな研究展望を見出すことができた。例えばPPRNSの溶解はまずCyDの軸分子からの脱包接から開始するので、この機構を抑制することでPPRNSの溶解速度を劇的に遅延させることができると期待される。具体的には、軸分子の末端をCyDの空孔サイズよりも大きい官能基で封鎖(キャッピング)することによって、PPRNSの溶解の遅延が期待される。このような性質はDDS材料として利用したときの薬物徐放速度の制御につながると予想される。 また軸分子の末端官能基を変えた場合のPPRNSの形成速度と組成を解析したところ、形成速度によってPPRNSの組成が異なることが見出されたが、これも想定外の結果であった。形成速度を変更することで様々な組成PPRNSを作り分けることができることを示している。特にDDS材料への応用を想定した場合に、導入できる薬剤量の調節が可能であることが予想される。 PPRNS単層コーティング、乾燥状態ならびに液中における層構造解析、さらには物性測定(防汚性)にも成功した。技術・基礎的解析・応用まで一貫して成功したことも大きな進捗と捉えている。 想定外の結果を得て、新たな展望がもたらされたという観点で、研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、PPRNSの溶解機構、形成過程、コーティングと機能測定などを行った。そして形成や溶解における分子論的な描像が徐々に明らかになりつつある。2022年度も引き続き、形成や溶解における機構解明を目的として、軸末端を系統的に変えた場合のPPRNSの形成・溶解における構造・組成変化をさらに系統的かつ詳細に調べ、これらの現象の分子論的な描像を明らかにしていく。加えて、軸末端を固定し、PPRNS形成におけるCyDや軸分子の濃度を変化させて得られるPPRNSの構造(例えばサイズ分布、厚さ分布など)を調べる。核形成と成長の理論をベースに理解するとともに、サイズ制御の方法論を確立する。さらに2021年度に明らかになった形成過程に応じてPPRNS中のCyDと軸の組成比が変化することを考慮し、組成比の制御と薬剤導入なども行う予定である。これらはPPRNSをDDS材料としての応用を見据えた実験である。
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