2021 Fiscal Year Research-status Report
Unconventional high-temperature light-emission physics in non-equilibrium low-dimensional quantum system
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21K14486
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西原 大志 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (80768672)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 熱放射 / ナノ構造物質 / カーボンナノチューブ |
Outline of Annual Research Achievements |
「光」は人間の諸活動に不可欠なもので、高強度、高効率な光源の研究開発が絶えず行われている。近年、発光ダイオード(LED)が身近な可視照明光源となったが、赤外域に関しては、LEDの効率、強度の低さが課題となっており、現在でも分析機器や製品加工におけるインコヒーレント赤外光源用途として、電流駆動型の熱放射光源が積極的に利用されている。しかし、熱放射光源には黒体限界と呼ばれる放射強度の原理限界が存在し、それが大きな課題となっていた。本研究では、革新的な高強度近赤外インコヒーレント光源の実現に向けて、従来型、電流駆動熱発光の放射強度の限界を押し上げることが可能な、量子非平衡系の高温発光物理の解明を目指す。具体的には、電流加熱した金属型カーボンナノチューブの特殊な高温発光を単一チューブレベルで測定し、放射強度の増強に繋がる低次元量子非平衡系の高温発光の学理を見出す。本年度は、電流加熱した単一金属型カーボンナノチューブの格子温度に関する知見を得ることができた。金属型ナノチューブの高温発光スペクトルはピーク構造を有するが、電流加熱時と光加熱時ではピークエネルギーが異なることがわかった。同時に行ったラマン散乱測定や先行研究の知見から、ピークエネルギーが音響フォノン温度、すなわち格子温度と強い相関があることがわかった。さらに、電流加熱の場合、格子温度から期待される熱放射よりも高強度の発光が生じていることがわかった。放射強度は黒体限界を超えており、従来型、電流駆動熱発光の原理限界を超えることを実験的に実証できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、電流加熱下の金属型カーボンナノチューブのフォノン温度を見積もる手法を確立することができた。計画立案当初は、先行研究を参考に電流―電圧曲線からフォノン温度を見積もる計画であった。しかし、試料が先行研究と比べ長かったためか、理論計算で実験結果を再現することができず、フォノン温度を見積ることはできなかった。そこで、ラマン散乱や異なる加熱方法などを試すことで、最終的に、発光のピークエネルギーから音響フォノン温度(格子温度)を見積もる方法を確立した。さらに、フォノン温度がわかったことで、平衡熱放射との比較が可能となり、電流加熱下の金属型カーボンナノチューブでは高強度の熱発光が発生していることを実験的に実証することができた。本年度は、本研究で核となる実験結果が得られていることから、研究は順調に進んでいると判断し、「概ね順調」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
予定していた実証実験はほぼ完了した。今後は、観測した非従来型、電流駆動熱発光のより定量的な理解を目指す。具体的には、電流加熱した金属カーボンナノチューブは電子系やフォノン系が非平衡系となっていることから、実験結果から各量子の化学ポテンシャルを導出し、熱力学の観点からこの熱発光現象の物理メカニズムの解明を目指す。また、先行理論研究では上手く説明できない電流加熱が生じている可能性があり、その検証を行う。
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Causes of Carryover |
参加予定していた学会が急遽オンライン開催となったため、繰り越しが生じた。繰り越し金は、必要な実験の継続に伴う物品等の購入、論文投稿および学会発表にかかる費用などに使用する予定である。
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