2021 Fiscal Year Research-status Report
高効率かつ高速で放射線を検出する金属錯体ナノ粒子分散系のシンチレータ開発
Project/Area Number |
21K14492
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 龍樹 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (90805285)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 金属錯体 / ナノ粒子 / シンチレーションスペクトル / J会合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、固体で高い発光量子収率をもつtetraphenylethene(TPE)を発光団とした有機配位子を合成し、その金属錯体のナノ粒子化および発光特性の評価を行った。まず、TPEにカルボン酸を導入した1,1,2,2-tetrakis(4-carboxyphenyl)ethyleneと硝酸亜鉛Zn(NO3)2 6H2Oを反応させ、Zn錯体を合成した。得られた錯体の発光量子収率は40%であり、錯体形成前の配位子と同程度の発光量子収率を維持していた。実際、このZn錯体においてシンチレーションスペクトルを取得することに成功した。しかし、錯形成速度が遅いことが原因で、反応晶析を原理とする独自のナノ粒子化手法「ナノ粒子反応法」では、ナノ粒子化は困難であった。そこで、錯形成反応を向上させるため、窒素配位子1,1,2,2-tetrakis(pyridine-4-yl)etheneを用いた金属錯体を検討した。この窒素配位子と臭化銅(I)を用いて、ナノ粒子反応法を行ったところ、粒径800 nm程度の粒子が得られた。しかし、発光量子収率は1%程度と極めて低下してしまった。 一方で、本研究で達成する大きな発光量且つ短い発光寿命を有する化合物として、J会合体を形成する有機色素についても検討も行った。ペリレンビスイミドを基本骨格とする1,6,7,12-tetrakis(4-[3,4,5-tridodecyloxybenzoyloxy]phenoxy)perylene-3,4:9,10-tetracarboxylic acid bismine(PBTtdbと略す)を文献に従い合成した。合成したPBTtdbはメチルシクロヘキサン中で発光量子収率47%、発光寿命が2.4ナノ秒と発光量および発光寿命ともに良好な発光特性を示した。さらに、液体シンチレータで使用されるアルキルベンゼン系を溶媒として発光スペクトルを確認したところ、ドデシルベンゼンにおいて良好なJ会合体由来の発光ピークを観測した。このPBTtdbのドデシルベンゼン溶液においてシンチレーションスペクトルを取得することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金属錯体においてシンチレーションスペクトルが取得できた。またtetraphenyleheneを発光団とする配位子を用いた金属錯体をナノ粒子化できる筋道が立った。
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Strategy for Future Research Activity |
金属錯体のナノ粒子化が可能な配位子として窒素配位子を用いた検討を進めていく。特に、より大きな発光量が期待できる、1,1,2,2-tetrakis(4-(pyridine-4-yl)phenyl)ethaneを有する金属錯体ナノ粒子の作製を行う。また、良好な発光特性した有機色素PBTtdbについても、金属など重原子とのコンポジット化など、放射線での効率的な励起を可能にする条件を模索する。
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Causes of Carryover |
当初の予定に反し、作製した金属錯体ナノ粒子が大きい発光量を有していなかった、もしくはナノ粒子として生成しなかった。研究遂行上、大きい発光量を有する金属錯体ナノ粒子が、シンチレーションスペクトルの評価に進むにあたり不可欠であり、新たな分子設計で金属錯体ナノ粒子を作製する必要があるため、次年度使用額として当該助成金が生じた。 翌年度は、分子の検討およびその構造解析(電子顕微鏡使用料など)に当該年度の予算を当て、当初予定していた翌年度予算は、計測および学会のための旅費、論文制作に関わる費用、薬品やガラス器具など消耗品として使用する。
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