2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K14499
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Research Institution | Tokyo University of Technology |
Principal Investigator |
入谷 康平 東京工科大学, 工学部, 助教 (60815124)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 透明発光体 / 凝集誘起発光 / 単分子膜 / 気液界面 / 両親媒性分子 / テトラフェニルエチレン |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、自動車のフロントガラスやパーティションなどの透明表示パネルに用いられる透明蛍光体に関心がもたれている。透明蛍光体の従来の作製方法として、蛍光物質の微粒子化やレアメタルを用いる方法があるが、微粒子化が困難であることや原料が高価であることなどの課題がある。一方で、蛍光分子を用いることで安価かつ軽量性やフレキシブル性を維持した透明発光体が得られると期待されるが、蛍光分子の多くは固体状態になると消光することが知られている。そこで本研究では、凝集状態でも効率的に発光する凝集誘起発光性 (AIE) 分子を用いた単分子膜を構築すること、またその発光波長を制御することを目的とした。単分子膜の形成は、大面積で二次元的周期構造を形成できる気液界面を利用し、AIE分子としてテトラフェニルエチレン (TPE) 骨格を用いた両親媒性分子を用いることとした。 これまでに、気液界面に分子を安定に配置するために、親水基をもつTPE誘導体を合成した。この分子を用いて、気液界面において単分子膜を作製したところ蛍光を発する膜が得られることを明らかにした。得られた分子膜をシリコン基板に転写した後、原子間力顕微鏡観察により膜厚を測定すると、単分子膜厚であることが示唆された。またガラス基板に転写後、分光器により発光波長を測定した。一方で、炭素数12のアルキル鎖を導入したTPE誘導体を合成し単分子膜の作製を試みたところ、水面で安定な分子膜を構築しないことが分かった。アルキル鎖の炭素数が大きく疎水効果が大きかったため、単分子膜を形成するより水面上で分子が凝集したことが原因だと考えられる。 これまでの研究により、単分子膜構築の分子設計の方針を明らかにできたことは、今後の発光波長の制御などの応用に必要な知見および技術であり、本研究の発展に貢献できる点で大いに有意義だと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目では、まず、両親媒性のテトラフェニルエチレン誘導体を合成し、気液界面において単分子膜を作製することを目的とした。目的物の合成に成功し、単分子膜測定装置により、気液界面において単分子膜の作製を試みた。溶質濃度や水温などの単分子膜作製条件を検討した結果、表面圧-平均分子面積等温線のモニターにより、室温では安定な膜構造を形成しなかったが、水温を5℃程度の条件では膜を形成することを明らかにした。得られた膜をシリコン基板に転写し、原子間力顕微鏡で観察することで、均一な膜が形成されていることと、膜厚が単分子の厚さに相当することも分かった。さらに、石英基板に転写後に分光器で紫外可視吸収スペクトルおよび蛍光スペクトル測定を実施し、単分子膜状態での吸収および蛍光を測定することにも成功した。 一方で、室温でも薄膜が形成できることを狙って、疎水性相互作用による薄膜形成の安定化を試みた。炭素数12のアルキル鎖を含むテトラフェニルエチレン誘導体を合成し、同様に薄膜形成を試みたが、室温、低温条件ともに、安定な単分子膜を得ることはできなかった。狙っていた単分子膜は得られなかったが、テトラフェニルエチレン骨格の分子を用いた単分子膜作製における分子設計の方針を明らかにできたことは、大いに意義のある結果となったといえる。 さらに、2年目の計画とした蛍光波長の制御に関して、設計した電子供与基を導入した分子の合成にも着手したが、目的物の生成には至っていない。 以上、1年目の目標は達成できたことから、計画は順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、計画通り単分子膜の発光波長を変化させるために電子供与基や電子吸引基を導入した分子の合成を行う。分子の合成には着手しているが目的物の生成には至っていないため、既報論文の合成方法を参考にして合成条件を検討しつつ、目的物の合成を試みる予定である。また、疎水性相互作用による単分子膜の安定化の検討のために、アルキル鎖の炭素数を変更した分子を合成し、室温でも安定に薄膜化できるかどうか検討する。なお、単分子膜の作製については、1年目と同様の方法で条件検討および薄膜の評価を行う。 単分子膜の転写については、これまでにガラス基板上に転写できることは明らかにした。今後は、透明なポリエチレンテレフタレートのフィルムなどのポリマーフィルムへの転写にも着手する計画としている。
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Causes of Carryover |
分析装置補修維持費として計上分について、軽微な修理であったため無償となった。また、目的分子の合成が順調に進行したため、消耗品費が想定よりも節約できた。以上より、次年度使用額が生じた。 2年目に想定している目的物の合成において、計画した合成経路では合成が困難であることが分かった。また単分子膜形成においても、申請時の想定よりも多くの条件検討が必要であることが分かった。次年度使用額と令和4年度分助成金は、これらの検討に単分子膜の評価に必要とされる消耗品費として使用する計画とした。
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Research Products
(2 results)