2021 Fiscal Year Research-status Report
DNA1分子で数nm精度のDNA編集用タンパク質結合位置特定法
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21K14511
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
東 直輝 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (50823283)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マイクロ流体デバイス / DNA一分子分析 / 光学的超解像 / 一分子操作 / DNA-タンパク質結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,注目されているDNA編集法であるクリスパー・キャスナインは,切断タンパク質がDNA分子の標的の塩基配列に結合し編集する方法である.この方法は画期的な手法としてノーベル化学賞(2020年)を受賞し,遺伝子疾患の治療法として実用化が期待されている.一方で,切断タンパク質が標的以外の配列位置に誤って結合し編集するオフターゲット作用が問題視されており,実用化の最大の課題になっている.したがって,DNA編集法の実用化のためには,DNA分子上の切断タンパク質の結合位置を高精度に特定する技術が必要である.しかし,これまでのDNA分子を断片化して分析する方法では,結合位置の特定に多数のDNA分子が必要であり,分析に数時間を要していたため,高速で網羅的な分析は困難であった. 本研究では,微小流路内のDNA一分子操作と光学的超解像法による高速なタンパク質の結合位置特定を実現することを目的として研究を進めてきた.本年度では,第一に,DNA一分子のタンパク質の結合とその分子の伸長・固定を実現した.微細加工技術を用いてマイクロオーダの深さの微小流路を作製し,印加圧力を精密に制御することで,微小流路内でDNA一分子を操作することに成功した.次に,微小流路内でDNA一分子のタンパク質の結合位置を特定した.DNA分子とタンパク質に異なる色の蛍光分子を結合させ,得られた蛍光観察像からタンパク質の結合位置を特定することに成功した.さらに,分析の高精度化に向けて,光学的超解像法を用いた蛍光観察像の面内分解能の向上を試みた.その結果,DNA一分子について,蛍光観察像の面内分解能を通常と比較して7倍に向上することに成功した.本研究で得られた研究成果は,従来法とは全く原理が異なる新しい分析法を確立するための基盤的な知見となる.本分析法が実現できれば,従来法と比較して2桁高速な分析を実現できると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,微小流路内のDNA一分子操作と光学的超解像法を組み合わせたDNA一分子で高速なタンパク質の結合位置特定法を提案することを目的とした.本年度では,その基盤技術として,DNA一分子の伸長・固定と光学的超解像法を用いたタンパク質の結合位置特定を実現することを試みた.申請当初の予定通り,本年度の研究期間でこれら2つを達成できたため,順調に進展していると言える. 第一に,タンパク質を結合したDNA一分子の伸長・固定を実現した.まず,一般的なDNA分子の伸長・固定法である気液界面移動法を実施した.この方法では,気液界面の移動に伴う表面張力によってDNA分子を一分子毎に伸長・固定できるが,ガラス表面の表面張力の精密な制御が難しく,安定で再現性の良い伸長・固定は実現されなかった.そこで,微小流路内で圧力流れ場を用いたDNA分子の伸長・固定を試みた.微細加工技術を用いてマイクロオーダの深さに設計した微小流路を作製し,印加する圧力を精密に制御することで,微小流路内のDNA一分子の伸長・固定を実現した.圧力と深さの制御によって,高精度なタンパク質の結合位置特定を実現できるほど十分に大きな伸長率を達成した.次に,蛍光顕微鏡を用いてDNA一分子のタンパク質の結合位置の特定を実現した.顕微鏡システムを改良して,異なる色の蛍光分子をそれぞれ結合させたDNA一分子とタンパク質の多色イメージングを実現した.得られた蛍光像からDNA一分子上のタンパク質の位置を特定した.さらに,光学的超解像法を用いて,DNA一分子の蛍光像の面内分解能を通常と比較して7倍程度に向上した.これによって,DNA一分子上のタンパク質結合位置特定における光学的超解像法の有効性を明らかにした.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究期間で,本研究で提案するDNA一分子のタンパク質結合位置特定法の実現性を明らかにしたため,今後の研究では,当初の予定通りに光学的超解像法の面内分解能の向上による結合位置特定の高精度化に取り組む. 第一に,量子ドットとピエゾステージを用いたドリフト低減を実現する.蛍光発光する量子ドットを流路に導入して表面に吸着させる.量子ドットの輝度分布の中心位置を追跡し,撮像中のドリフト量を検出する.フィードバック制御によってその分だけピエゾステージを移動し,ドリフトを補正する.提案するドリフト補正法を実現するために,備品として0.1 nm精度の高精度ピエゾステージを購入する.第二に,全反射照明と表面プラズモンによる蛍光増強を用いたDNA分子とタンパク質の蛍光強度のSN比の向上を試みる.これらを実現する光学系を新規に構築する.光学的超解像法では,蛍光強度のSN比がその面内分解能に影響するため,蛍光増強によってSN比を向上できれば,DNA一分子上のタンパク質の結合位置特定の高精度化を実現できると考えられる.微小流路内に表面プラズモンを励起するためにスパッタを用いて金属ナノ薄膜を形成する.微小流路内の圧力流れ場を用いてDNA分子を伸長・固定する.全反射照明によって,金属ナノ薄膜表面上の蛍光分子の蛍光強度を増強できる.これと光学的超解像を組み合わせることで,面内分解能の向上を図る.ドリフト補正と蛍光増強による結合位置特定の高精度化の実現性を検証するため,モデルDNA分子とタンパク質を用いて実験を行う.本手法により特定したタンパク質の結合位置と既知である塩基配列を比較することで妥当性を評価する.
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