2021 Fiscal Year Research-status Report
Nanoscale high-pressure high-temperature imaging using diamond quantum sensor
Project/Area Number |
21K14524
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
荒井 慧悟 東京工業大学, 工学院, 助教 (10786792)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 量子センシング / ダイヤモンド / 高温高圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球科学では高温高圧環境が欠かせない。高温高圧を実現する装置としてダイヤモンド・アンヴィル・セル(DAC)がある。ところが現状では、DAC内部の温度・圧力を高感度・高空間分解能でイメージングできるセンサが存在しないため、マントル組成や地殻の磁気モーメント含有量をより精緻に特定することは困難だ。本研究では、圧力・温度センサとして~1000K,~100GPa下で動作するダイヤモンド中の窒素・空孔欠陥(NVセンター)を用いて、DAC内の温度・圧力を高感度・高空間分解能で計測する手法の確立を目指している。
一年目の2021年度は、NVセンターの温度感度および圧力感度を常温常圧から高温高圧に至るまで2次元パラメータ空間(T,P)で決定することを目標としていた。その最初の段階として、DACにより高圧を印加し、数10GPaに至るまでの圧力感度を常温で計測した。NVセンターの封入にあたっては、二年目に予定していたナノダイヤモンドを封入する技術を前倒しして開発し、採用した。本計測は常温で行われたため、先行研究がある。我々が得た圧力感度の結果はこれらの先行研究のものと整合しており、高温環境への拡張に対する期待が高まった。ところが、高温環境の実現にあたって、計測の再現性の観点からDAC全体を均一に加温する必要が生じたために、当初予定していたレーザー局所加熱とは異なる温度調整装置をいまだ設計している段階にある。二年目の2022年度は、高温環境を実現する装置の構築を進め、温度感度および圧力感度を温度・圧力の2次元空間でより包括的に計測することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①実験装置の構築はおおむね順調に進展:2021年度は、高温高圧環境を実現する機能を備えた量子センシングの実験系を構築することを目標としていた。計測装置としては、量子センサとして用いるNVスピンの共鳴周波数を精密に計測・イメージングする装置の立ち上げが完了しており、高圧環境を実現するダイヤモンド・アンビルセル(DAC)との統合にも成功している。ところが、高温環境については、当初レーザー局所加熱を予定していたが、実験結果の再現性の観点からDAC全体を加熱する必要が生じたために、抵抗加熱が可能な装置を設計している段階にある。一方で、2年目に予定していたナノダイヤモンドを封入する手法を前倒しで開発しており、こちらは予定よりも早く進展している。
②数値計算・理論構築はおおむね順調に進展:高温高圧環境での圧力係数、温度係数はこれまで計測されていないため、理論的・数値計算的予測が重要となる。そこで今年度は、常温常圧での係数計測の先行研究および群論・格子振動理論に基づく圧力係数、温度係数の理論を構築した。常温高圧の範囲では、先行研究および我々の実験結果を定性的に説明できているため、この理論の高温高圧での有効性も示唆されている。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目 (2022年度)は、一年目に達成できなかった高温環境を実現し、高温高圧での温度・圧力係数の包括的な計測に取り組む。特に、これまでに構築した理論モデルでは、高温高圧下で温度感度が上昇、圧力感度が減少することが示唆されており、その仮説検証および係数の定量評価に世界で初めて挑戦する。また、一年目に開発着手した直径約100nmのナノダイヤモンドをDACに封入する手法が高温でも適用可能なことを示す。申請者がこれまでに開発した超分解能イメージング法を用いて、空間分解能をナノダイヤのサイズである100nmまで向上させることも検討する。
その後の展望としては、NVセンターを磁場センサとして用い、地球科学の未解決問題に取り組むことを目指す。例えば、温度・圧力が精確に決定された高温高圧下において地殻組成を模擬した鉱物試料の磁化分布を計測することで、地下深くにおける磁気モーメントの含有量を見積もる。その情報から地表での地磁気異常に地下鉱物がどの程度寄与しているか、といった問いに取り組むことが考えられる。地球科学の未解決問題に示唆を与えられる。将来的には、当技術を地球科学の他の問題や、高圧下での常温超電導転移の解明、高温高圧下での機械モニタリング等の社会実装に向けて応用していきたい。
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Causes of Carryover |
下記3つの理由より次年度使用額が発生した。①今年度予定していた高温実験が来年度に繰り越しとなり、放射温度計などが不要となった。また、RFシグナル・ジェネレータ等も借用することができたため、不要となった。②半導体不足の影響で納入の大幅な遅れが予想される実験機材の購入を一部見送った。③コロナ禍のために当初予定していた国際学会への現地参加を見送った。
次年度は本年度で購入できなかった温度計やRFシグナル・ジェネレータ等を購入する。また、コロナ禍の状況が改善しつつあるため、前年度分を補うように国際学会へ積極的に参加する予定である。
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