2021 Fiscal Year Research-status Report
ホイスラー型ワイル磁性体薄膜の電子構造解明と熱電能の増強
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21K14540
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
角田 一樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (20882369)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ホイスラー合金 / ワイル磁性体 / 角度分解光電子分光 / スピン分解光電子分光 / 共鳴光電子分光 / ハーフメタル / 異常ネルンスト効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
ホイスラー合金はX2YZの分子式で表される典型的な規則合金である。X, Y, Zの各サイトにはさまざまな元素を配置することが可能であり、元素の組み合わせは1000通りを優に超える。本研究ではその中でも特に、強磁性ワイル半金属であることが理論的に予測されているCo2MnZ (Z = Al, Si, Ga, Ge)合金系に着目し、「バルク敏感性の高い軟X線」と「表面敏感性の高い真空紫外線」を相補的に利用した光電子分光実験によって電子構造を解明することを目的としている。2021年度は主にCo2MnGaとCo2MnSi薄膜試料に注目して研究を進めた。 Co2MnGaは室温・ゼロ磁場において最大の異常ネルンスト効果を示す物質であり、その起源はワイルコーンと呼ばれるバルクの電子構造に由来している。これまで表面敏感性の高い真空紫外線を利用して研究が進められてきたが、今回我々は軟X線を励起光源とすることでバルクのバンド分散を可視化することに成功し、フェルミ準位近傍にワイルコーンが存在することを明らかにした(Phys. Rev. B誌に掲載)。また、成膜時のアニール温度を制御することで、MnとGaがランダムに配置したB2不規則相を作り分け、その電子構造を軟X線角度分解光電子分光によって明らかにした。 ハーフメタル性を示すことが予測されているCo2MnSiに対して、軟X線共鳴光電子分光を行い、価電子帯におけるMn3d部分状態密度に関する知見を得た。実験結果はGGA法を用いた第一原理計算結果とよく一致した。また、真空紫外スピン・角度分解光電子分光を行うことで、スピン分解したバンド分散を可視化した。スピン偏極率の温度依存性を詳細に追跡すると、ブロッホのT3/2則に従って偏極率が低下していることを実験的に見出し、熱励起マグノンがスピン脱偏極機構に重要な役割を担っていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、実験を目的とした出張や物品の購入が予定通りに実施できていない等、一部に遅れが生じているものの、物質・材料研究機構の研究グループと緊密に連携し、光電子分光実験に適した大面積かつ表面平坦性の高いホイスラー合金薄膜を作成することに成功している。また、当初の計画通り、軟X線および真空紫外線を用いた光電子分光実験をそれぞれSPring-8と広島大学放射光科学研究センターHiSORで実施できており、順調に電子構造に関する知見が得られている。特に、Co2MnSiは、Co2MnGaの参照物質として研究をスタートさせたが、ハーフメタル性の観点で当初の予想以上の成果が得られていることから、おおむね順調に進展している。と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、Co2MnGeやCo2FeSiなどのハーフメタル系や、ワイル強磁性体Co2MnAlをベースとした四元型化合物に研究を発展させる。また、SPring-8 BL23SUに設置されている光電子分光装置の改良を行い、ポータブルスーツケースチャンバーを用いた薄膜試料の真空輸送が行える環境を構築する。改良に必要なトランスファーロッドは2021年度に取得済みであり、次年度はマニピュレーターヘッドとサンプルホルダーの改良を進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、実験を目的とした出張についてタイミングや回数に制約が発生したことや装置改良に必要な物品が納入されるまでに当初の予想以上に時間を要して工程に遅れが発生したこと等により、当初計画よりも支出額が少なかったため、次年度使用額が生じることとなった。 次年度使用額は、2022年度分の研究費と合わせて、装置の改良に係る費用や実験を目的とした出張に係る経費として使用する。
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[Presentation] ホイスラー合金Co2MnSi薄膜におけるスピン偏極電子構造の温度依存性の観測2021
Author(s)
角田一樹, 鹿子木将明, 桜庭裕弥, 増田啓介, 河野嵩, 後藤一希, 宮本幸治, 三浦良雄, 宝野和博, 奥田太一, 木村昭夫
Organizer
日本物理学会2021年秋季大会
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