2022 Fiscal Year Research-status Report
ホイスラー型ワイル磁性体薄膜の電子構造解明と熱電能の増強
Project/Area Number |
21K14540
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
角田 一樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (20882369)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ホイスラー合金 / ワイル磁性体 / 角度分解光電子分光 / スピン分解光電子分光 / 共鳴光電子分光 / ハーフメタル / 異常ネルンスト効果 / スピン・角度分解光電子分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
ホイスラー合金はX2YZの組成式で表される典型的な金属間化合物である。X, Y, Zの各サイトにはさまざまな元素を配置することが可能であり、膨大な数の元素の組み合わせが存在している。2022年度は主にCo2(Mn,Fe)Si薄膜の電子構造に注目して研究を進めた。 Co基ホイスラー合金は高スピン偏極かつ高キュリー温度という応用上極めて重要な特性を併せ持つ場合が多い。特に、Co2MnSiはフェルミ準位におけるスピン偏極率が100%となるハーフメタル材料の代表的な候補物質である。一方、MnをFeに置き換えたCo2FeSiは、ハーフメタル電子構造だけではなくトポロジカルに非自明なバンド構造に起因する大きなベリー曲率や巨大異常ホール・ネルンスト効果の発現が理論的に予測されており、最近注目を集めている。 Co2FeSiの電子構造計算には経験的に3-5eV程度のオンサイトクーロン相互作用を取り入れている場合が多い。しかしながら、実験的に相互作用の大きさが評価されていないため、ハーフメタル電子構造やトポロジカルに非自明なバンド分散が実際の系で形成されているかは未解明のままであった。そこで、Co2MnSi, Co2(Mn,Fe)Si, Co2FeSi薄膜に対してバルク敏感な軟X線共鳴光電子分光を行い、価電子帯における部分状態密度の観測および第一原理計算との比較を試みた。その結果、これらの系におけるMnおよびFe-3d部分状態密度はオンサイトクーロン相互作用をほとんど取り入れていない第一原理計算によって再現できることが明らかとなり、Co2FeSiがハーフメタル材料ではないことを示唆する結果が得られた(論文執筆中)。 また、研究代表者がこれまで行なってきたCo基ホイスラー合金の電子構造に関する研究成果を解説記事としてまとめた(固体物理に掲載)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
物質・材料研究機構の研究グループとの緊密な連携により、Co基ホイスラー合金薄膜の電子構造・熱電能に関する知見が順調に得られている。特に、SPring-8の軟X線放射光を用いた元素選択的かつバルク敏感性の高い光電子分光法と、広島大学放射光科学研究センターにおける真空紫外放射光を用いた表面敏感スピン分解光電子分光法を相補的に利用した研究アプローチが確立されたことにより、バルクと表面の電子構造を切り分けて観測することが可能となった。また、2022年度はCo2Mn系のみならずCo2Fe系ホイスラー合金薄膜にも研究を拡げることができ、オンサイトクーロン相互作用の強さに関して非常に重要な知見を得ることができた。これらの理由から、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2023年度は、異常ネルンスト効果による大きな熱電能が観測されているCo2Mn(Al,Si)やCo2Mn(Ga,Ge)などの四元型ホイスラー合金薄膜にも研究対象を拡げ、バルク敏感軟X線光電子分光と表面敏感真空紫外光電子分光を相補的に組み合わせ、スピン偏極電子構造と熱電能との対応関係の解明を進める。 また、これまでに得られた成果を論文としてまとめる。
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Causes of Carryover |
大型放射光施設SPring-8に設置されている日本原子力研究開発機構専用ビームラインBL23SUの挿入光源(真空封止アンジュレータ)が2022年に故障し、これに伴い光電子分光装置の改良計画に一部遅れが生じたため、次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額は、2023年度分の研究費と合わせて、装置の改良に係る費用や実験を目的とした出張に係る経費として使用する。
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[Presentation] Temperature-dependent spin-polarized electronic structure of the half-metallic Heusler alloy Co2MnSi films2022
Author(s)
K. Sumida, M. Kakoki, Y. Sakuraba, K. Masuda, T. Kono, K. Goto, K. Miyamoto, Y. Miura, K. Hono, T. Okuda, and A. Kimura
Organizer
29th International Conference on Low Temperature Physics (LT29)
Int'l Joint Research
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