2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of the ultrafast observation method of the thermal magnon noise dynamics
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21K14550
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗原 貴之 東京大学, 物性研究所, 助教 (60880151)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | マグノン / 熱揺らぎ / テラヘルツ / 超高速分光 / 光物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,有限温度の秩序磁性体において熱的に生じていると思われるTHz帯のスピン揺らぎを実時間領域で観測する実験手法の開拓である。このために,今年度は測定試料の準備と測定系の整備を行い,基礎検証実験を行った。まず測定試料としては希土類オルソフェライトSm0.7Er0.3FeO3単結晶を機械研磨して光学透過測定可能な厚みに加工し,中赤外ポンプ-近赤外プローブ測定によってスピン再配列相転移が室温近傍にあることを確かめた。この際,中赤外光の波長を25~33THzの帯域でチューニングし,4f電子系の共鳴励起と光学フォノンの励起に対するスピンダイナミクスを比較したところ,4f励起の場合はフォノン系の熱化よりも早い時間で相転移が生じることが確認された。これにより,4f系の電子状態がスピン再配列相転移の駆動力になっていることを明らかになった。 並行して,スピン揺らぎの測定系構築を行った。40 MHz程度の高繰り返しなフェムト秒Erファイバーレーザーを光源として,時間遅延をつけた2つのパルスをSm0.7Er0.3FeO3試料に透過し,それぞれのパルスの偏光回転成分をバランス検出した後,出力電圧の中に含まれる高周波の揺らぎ成分を高感度検出して相関を取る処理を行う実験系を構築した。この結果,時間遅延に応じた相関出力の周期振動が観測された。この信号はサブTHz領域のマグノン周波数に相当する時間スケールを持ち,スピン再配列付近で劇的に増大する温度依存性を示すことから,マグノン熱揺らぎのダイナミクスを初めて観測できたと考えられる。 これらの成果は,テラヘルツ時間スケールにおける物質中のインコヒーレントな素励起ダイナミクスを実時間観測する画期的な道筋を拓くものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
基礎試料であるオルソフェライトSm0.7Er0.3FeO3の評価に関してはPRL 127, 107401 (2021)において論文発表に至った。また当初は5年計画であったが,初年度においてマグノン熱揺らぎに対応すると考えられる信号を早くも取得できたため,当初の予定以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はここまで得られたオルソフェライトSm0.7Er0.3FeO3の測定結果を基に,さらなる高感度化を目指して実験系のアップグレードを行なっていく。具体的には,繰り返し周波数に対する最適なロックイン時定数の選択,自動ステージの高分解能化,高NA対物レンズによる集光の改善などを予定している。現状の課題は測定時間であり,数10 psの応答を測定するのに数時間かかっている。これら装置系の改善によって測定時間の高速化を図り,温度依存性,磁場依存性など様々なパラメータを網羅的に調べることを目指す。また,スピン再配列相転移付近のスピン系の熱揺らぎに関して理論計算を行い,実験との比較を試みる。
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Causes of Carryover |
COVID-19の長期化により当初計上していた旅費に余剰が生じたため,余剰分を2022年度に回すこととなった。年度配分とあわせて,実験に必要な光学部品・機械部品等の購入および学会参加費等に充てる予定である。
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Research Products
(5 results)