2021 Fiscal Year Research-status Report
蜘蛛の巣の粘性物質の挙動解明のための光プローブ分析システムの新たな開発
Project/Area Number |
21K14556
|
Research Institution | Toyota Technological Institute |
Principal Investigator |
趙 越 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), ポストドクトラル研究員 (20832166)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | SHG顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、超短パルスレーザー光源を用いた分光手法によって、粘球の光物性(蛍光、多光子吸収発光、赤外吸収、第二高調波など)を調べ、それら特有のスペクトル(波長)を選択しながらイメージングする。これにより分子構造の特徴や成分分布の変化における挙動を明らかにすることが目的である。サンプルを前処理せず、非接触的な手法を用いて分析しなければならない。そのため、光学的手法は直径数マイクロメートルの粘球を観察することができる。しかし、一般的な光学顕微鏡では粘球の形態変化は観察できるが、付着前後における粘球の物性変化および粘着メカニズムを分析するためには、分光学的または非線形光学的手法に基づくマイクロイメージングを実施する必要がある。二倍波顕微鏡の場合、規則性が高く、非中心対称である構成物質について、コントラストの高いイメージを観測できる。粘球の構成成分における非中心対称構造および屈折率の変化においても、超短パルス光源を用いれば、効率よく粘球の構成成分を選択するイメージングができる。 今年度では、目的を達成するための重要なシステムとして、直径数マイクロメートルのものを短時間でイメージングできる顕微鏡システムを開発し、蛍光、多光子吸収発光、光第二高調波発生の観察を一体化したフルフィールド顕微イメージングシステムを開発・構築した。超短パルスレーザービームを極限まで集光せず、比較的に広い面積での励起、いわゆるスナップショット法によって、数ms~数sの露光時間で、画像数2304×2304、数μmの空間分解能で蛍光、多光子吸収発光および光第二高調波発生をイメージングを行うことができた。その他、4f光学系と顕微鏡システムを組み合わせて、0.5 m先の対象物を観察する長距離顕微鏡を開発した。以上に開発した計測システムを動作確認し、実際の蜘蛛の巣を観察・分析するための環境が整った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
一年目の研究実施計画は顕微鏡システムを構築することである。申請者が以前に開発したSHG顕微鏡システム(特開2019-45625)をベースとして、設計を改良した。検出しようとする信号は微弱な第二高調波信号(波長400 nm)および二光子励起発光(可視光領域)を構築したSHG顕微鏡システムで効率よく検出することができました。グルコース結晶を用いて、顕微鏡システムをテストし、最適化した。一年目の設定目標を達成した。その他、4f光学系と顕微鏡システムを組み合わせて、0.5 m先の対象物を観察する長距離顕微鏡を開発した。長距離顕微鏡の開発は当初に計画していないが、実際の観察環境に応じて、新規に開発したものである。実際の蜘蛛の巣を観察・分析するための環境が整った。また、長距離顕微鏡をテストする際に、静電場の強度分布をイメージングすることができることを発見し、当初の計画以上の付加成果を得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
蜘蛛の巣の粘球は、糖タンパク質、塩および水で構成された混合物である。粘球は紫外線の照射によって蛍光を放出するが、蛍光が放出する原因はまだ解明されていない。本研究では、蛍光の起源となる物質が糖タンパク質であると考え、機械的刺激で糖タンパク質を分離させ、顕微分光法を用いて蛍光と糖タンパク質との関係を明確にすることを一つ目の目標とする。具体的には、力学的な刺激により糖タンパク質と塩が自発的に相分離する性質を利用して、蛍光が発生する空間分布が糖タンパク質と一致するかどうかを調べる。また、粘球は複雑な溶液であるとも言われており、粘球の構成物質はランダムに存在し、配向性がない。一方、粘球を構成する糖タンパク質内のアミノ酸の一部に糖鎖が結合している。糖鎖の構造によっては、SHGが活性化すると考えられている。超短パルスレーザー励起を用いることにより、SHG信号と同時に多光子励起発光が検出でき、情報量の多い測定が可能となる。SHGと多光子励起発光の情報を比較することにより、糖タンパク質のSHG活性を明らかにすることを二つ目の目標とする。二年目の研究実施計画では、実際の蜘蛛の巣における粘性物質(粘球)を開発したイメージングシステムで調べる。6月-9月はサンプルを採取する季節になるため、集中的に実サンプル(粘球)を観察し、データを取得する。
研究計画の変更点:当初では、境界界面の屈折率の変化に敏感な三倍波を利用し、境界界面における情報を得ることを計画したが、EDS(エネルギー分散型X線分光法)より元素をマッピングすることより、高い面分解能で効率よく同じ情報を取得できる。そのため、三倍波を利用するシステムを構築必要がなく、電子顕微鏡とEDSを利用して、粘球における電子顕微像や元素分布より粘着メカニズムまでの物理化学性質を調べることに研究計画を変更した。
|