2022 Fiscal Year Research-status Report
蜘蛛の巣の粘性物質の挙動解明のための光プローブ分析システムの新たな開発
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21K14556
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Research Institution | Toyota Technological Institute |
Principal Investigator |
趙 越 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), ポストドクトラル研究員 (20832166)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | SHG顕微鏡 / 赤外吸収分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
蜘蛛の巣における粘性物質は、糖タンパク質、塩および水で構成された混合物である。その構成成分や振る舞いは、まだ完全に解明されていない。本研究では、超短パルスレーザー光源を利用した分光手法を用いて、蜘蛛の巣の粘性物質の光物性(蛍光、多光子吸収発光、赤外吸収、第二高調波など)を調査し、その特有のスペクトルを選択してイメージングする。この手法により、分子構造の特徴や成分分布の変化に関する情報を明らかにすることが目的である。しかし、粘球の物性変化や粘着メカニズムを分析するには、通常の光学顕微鏡では不十分であり、分光学的または非線形光学的手法に基づくマイクロイメージングが必要である。この研究では、非線形顕微鏡と赤外分光イメージング法を用いて、蜘蛛の巣の粘性物質の特徴や挙動を調査する。
前年度には、蛍光、多光子吸収発光、光第二高調波発生の観察を一体化したスキャンレス顕微イメージングシステムを使用し、蜘蛛の巣の粘性物質の光物性を計測・観察・分析した。これにより、従来知られていなかった現象が観察され、蜘蛛の巣の粘性物質の構成成分の分布と振る舞いなどの実験結果を分析した結果、イオン液体の存在が示唆された。この仮説を証明するには、現在開発中の赤外分光イメージング装置を用いて、赤外吸収スペクトルから成分分布をマッピングすることが必要である。
来年度には、まず。赤外分光イメージング装置を構築を完成する。次に、蜘蛛の巣における粘性物質を計測できるように、赤外分光イメージング装置を最適化する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
二年目の研究実施計画では、蜘蛛の巣における粘性物質を一年目で開発した非線形光学イメージングシステムを用いて観察・計測し、蜘蛛の巣における粘性物質の特徴や挙動を調査することが主な目的である。6月から9月はサンプル(蜘蛛の巣)を採取する季節であり、この期間にサンプルを集中的に観察し、データを収集した。蜘蛛の巣の粘性物質における蛍光、多光子吸収発光、光第二高調波発生の顕微像を取得し、これまでに知られていなかった結晶構造を観察した。さらに、EDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いて元素マッピングを行い、高解像度の電子顕微画像を得て、その結晶を構成する元素を特定した。非線形顕微鏡で取得した顕微像とEDSによる元素マッピングを分析した結果、蜘蛛の巣における粘性物質はイオン液体の存在が示唆された。この発見は、当初の予想を超えるものであり、非常に興味深い現象である。来年度に実験で証明できれば、大きな発見になることが期待される。よって、今年度は計画通りの目標を達成した上で、新たな発見もあった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度では、非線形顕微鏡で取得した顕微像とEDSによる元素マッピングを分析した結果、蜘蛛の巣における粘性物質はイオン液体の存在が示唆された。来年度にはこの仮説を実験で証明することを計画している。この仮説を証明するには、赤外吸収スペクトルから成分分布をマッピングすることが必要である。まず、赤外分光イメージング装置を構築することと共に、蜘蛛の巣における粘性物質を計測できるようなハンドリング方法を探索する。赤外分光イメージング装置を構築した後、6月-9月における蜘蛛の巣の採取季節に、集中的にサンプルを計測し、データを取得する。蜘蛛の巣における粘性物質にはイオン液体が存在することが実験で証明された後、これまですべてのデータを整理し、蜘蛛の巣の粘性物質の特徴や挙動から、構成成分および粘着メカニズムを説明する。
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Causes of Carryover |
今年度では、研究の実行内容として主に計測と分析であり、新規に物品・消耗品などを購入することがなかったため、次年度使用額が生じた。
生じた当該助成金、及び、翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画について: (1)来年度は、異動のため、所属研究機関を変更する必要がある。「装置(除振台)の移設: 800,000円; 除振台の調整:150,000円」;(2)研究の結果は応用物理学会で発表する予定「旅費:150,000円; 参加費:12,000円」;(3)研究協力先への出張「旅費:70,000円」;(4)物品「温湿度計: 118,000円; 超音波洗浄器: 150,000円; 実験環境を整備保全するための消耗品:350,000円」
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