2022 Fiscal Year Research-status Report
熱的条件下での気相クラスター反応の時間制御による速度論的・熱力学的研究
Project/Area Number |
21K14583
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永田 利明 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (80783373)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 物理化学 / クラスター / 気相反応 / 質量分析 / 熱分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
気相クラスターの熱反応を解析する手法として以前から気相昇温脱離法という手法で研究を進めてきたが、この際の反応時間を制御することでクラスターの気相反応について熱力学的・速度論的に従来より詳細な解析を行うことを目指して研究を進めている。熱反応の時間制御を行うことで反応過程を詳しく追跡できるようになることが期待されるが、そのような解析が必要となる反応系として、多段階かつ正反応と逆反応が同時に進行するような反応過程に着目し、そのようなクラスター反応の候補となる反応系について気相昇温脱離法を用いた反応解析を行った。 ケイ素酸化物クラスターに水分子を反応させることでクラスター水和物を生成し、加熱することで起こる変化を調べた。Si, O, Hの原子から構成されるクラスターは、各元素が+4価、-2価、+1価を取るような化学量論的な組成が主に生成し、加熱によりH2O分子の脱離反応が見られた。H2O濃度条件を変化させた気相昇温脱離実験の結果を比較することで、加熱によって単にH2Oが脱離しているのではなく、同時にH2Oの吸着(逆反応)が起きていることが分かった。クラスターを1000 Kまで加熱してもH2Oは完全に放出されず、Si3O7H3+のような化学式の上ではまだH2Oの脱離が可能である組成で反応が止まることが分かった。量子化学計算と実験の結果を合わせて検討したところ、H2O分子はSi酸化物クラスターと反応することでOH基の形で存在していること、Si原子が四面体型4配位構造を取る構造が安定でそのような構造が取れない組成は著しく不安定であることが示唆された。 アルミニウム酸化物クラスターについても同様に水分子を反応させ熱変化を調べた。Siと同様に式の上ではH2Oの脱離がまだ可能であるような組成で脱離反応が止まったが、量子化学計算からはAlではSiとは異なる安定化則が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度は前年度に引き続き、時間可変な加熱反応実験の対象となるべき反応系を策定するための実験研究を主に進めたため、当初の目的である時間可変な加熱実験装置の開発よりもその前提となる反応実験を進めた形となった。装置開発が後回しになっている点では計画に遅れが生じているが、装置開発にあたっては現状の実験装置を改造する必要があるため当面の間当該装置を用いた実験研究を止める必要があり、現在進行中の反応実験研究を現時点では続けた方が良いという判断で計画とは異なる形で研究を遂行している。実験の方では十分に成果が得られていると考えており、本研究全体の評価としては順調に進んでいると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の最終年度にあたり、引き続き気相クラスター反応の研究を進めつつ、現在進行中の研究をある程度まとめられる時点で当初目標である時間可変の昇温脱離実験装置の製作を行い、年度内に動作の実証を行う予定である。それと合わせて、現在研究室で所持している気相クラスターの赤外解離分光の装置について、クラスター生成部を改良することで加熱条件下での振動スペクトル取得実験を行い、本研究の主目標である反応の熱力学的・速度論的解析に加え、クラスターの構造に基づく議論を行うことでクラスター反応についてより具体的な像を見出すことを目指している。
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Causes of Carryover |
当初計画より実験装置の開発を後に回したため、そのための費用が次年度の使用予定となった。COVID19の影響によりオンライン開催が主となっていた学会が対面実施に復帰しつつあるが、当年度は近隣で開催された学会のみに参加したため、旅費の支出をしていない。その分の旅費は次年度に遠方や海外で開催される研究集会に積極的に参加することに充てる予定である。
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