2021 Fiscal Year Research-status Report
赤外プラズモン増強場による高振動励起を基盤とした金属表面反応制御
Project/Area Number |
21K14584
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森近 一貴 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (60885391)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 振動回転励起 / 反応制御 / 超短パルスレーザー / プラズモニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,プラズモン増強赤外フェムト秒パルスにより気相分子を高振動励起することで,金属触媒表面における反応の制御を目指している. 本年度は,気相分子の振動・回転励起ダイナミクスを計測するための光学系の構築に取り組んだ.赤外フェムト秒レーザーをポンプ光とプローブ光の2つに分けてそれぞれガスセルに集光し,透過したプローブ光を分光器により分光・検出するシステムを構築した.系全体を自作のアクリルボックスで囲い窒素パージすることで,大気中の分子による光吸収の影響を排除した.ガスセルは,光路長をポンプ光とプローブ光のオーバーラップ長である1 mmに合わせる必要があったため,凸型の光学窓を特注し,光路長1 mmのガスセルを独自に設計・作製した.また,気相分子の吸収スペクトルに現れる回転線の間隔は1~2 cm-1程度と非常に狭いため,高い周波数分解能が必要となる.そこで今回,焦点距離の長い分光器を導入し,回折格子におけるビームスポット系をビームエキスパンダにより大きくすることで,およそ0.5 cm-1の周波数分解測定を達成した. 上記の光学系を用いて,気相分子の振動・回転励起ダイナミクスの観測を試みた.気相分子の第1振動励起状態への励起にともなう吸収変化スペクトルを,回転線を分離して計測することに成功し,Liouville方程式に基づく理論計算による結果とも良い一致を示した.また,ポンプ光とプローブ光の遅延時間を掃引すると吸収変化が振動する様子が観測され,異なる起経路間の干渉によって表れることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り,本年度は気相分子の赤外ポンプ・プローブ分光系の構築を完了し,気相分子の振動・回転励起ダイナミクスの計測にも成功した.特にガスセルについては,当初は光路長10 mmのものを使用していたために吸収変化スペクトルを計測できなかったが,光路長を1 mmのガスセルを自作することで,明確な信号を計測することに成功した.以上の理由により,本研究計画は「(2)おおむね順調に進展している。」と言える.
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Strategy for Future Research Activity |
今回の実験では,気相分子の第1振動励起状態までの励起に留まっており,反応を制御する上ではさらに上の励起状態に励起する必要がある.今後は,ポンプ光のパルスエネルギーをさらに大きくするとともに,パルス電場波形の整形も導入することで更なる励起効率の向上を図る.また,赤外域で共鳴する金属ナノ構造を設計・作製し,プラズモン増強場による気相分子の高振動励起を試みる.これらの手法を活用して,金属表面反応に対して反応物を高振動励起することで,反応効率の向上を目指す.
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Causes of Carryover |
赤外ポンプ・プローブ分光系やガスセルの構築および金属ナノデバイス作製について,当初の想定よりも経費を低く抑えることができたため,次年度使用額が生じた.今年度の予算は,翌年度分として請求した助成金と合わせ,分光計測用の光学素子やガスセル等の測定試料およびナノデバイスの作製費に充てる予定である.
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