2023 Fiscal Year Research-status Report
触媒の不活性および活性種の不安定性を克服する革新的カルベン触媒の創製
Project/Area Number |
21K14632
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
道上 健一 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 助教 (20838742)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | N-ヘテロ環カルベン / フッ素 / N-スルホニルイミン / アザ-Breslow中間体 / DFT計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
N-ヘテロ環カルベン(NHC)はアルデヒドの極性転換型分子変換を実現する有機触媒として広く認知されており、世界的に研究が展開されている。しかしながらアルデヒドの窒素類縁体であるアルジミンを適用した研究は未だに数少ない。これを推進するためには想定される中間体の構造や性質を解明した上でNHCを合理的に設計することが求められている。 所属研究室で独自に開発したポリフッ素化N-ヘテロ環カルベン(F-NHC)が、従来単離不可能な「N-スルホニル-アザ-Breslow中間体」を安定化することが判明したことを受け、その単離および構造決定、性質の精査を通して従来法では困難な分子変換へと展開することを目的とし、N-スルホニルアルジミンに由来するN-スルホニル-アザ-Breslow中間体やその類縁体を鍵活性種とするアルジミンの変換反応の開発に取り組んでいる。 2023年度は前年度に構造を明らかにした「N-スルホニル-アザ-Breslow中間体」について密度汎関数(DFT)法を用いた理論計算を実施し、F-NHC骨格がN-スルホニル-アザ-Breslow中間体の安定性にもたらす影響を電子状態や立体的構造特性に基づき評価した。一方、使用したF-NHCがかさ高く、イミン由来の炭素周りが立体的に保護されていたため当該炭素上での官能基化は困難であったものの、イミン由来の窒素や、イミン炭素から離れた炭素など、F-NHCのかさ高さの影響が小さい箇所に対する官能基化を検討したところ、従来型のN-S結合開裂に起因する分解を抑えつつN-スルホニル-アザ-Breslow中間体を触媒的に変換できる可能性が示唆された。本研究成果は、N-スルホニル-アザ-Breslow中間体の非従来型分子変換反応の開発に繋がり得る重要な知見であろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、既存のNHCでは分解しやすく単離不可能であったN-スルホニル-アザ-Breslow中間体についてDFT計算を行うことで、分解の原因およびF-NHC由来のアザ-Breslow中間体が安定に存在する要因を明らかにした。また、イミン由来の窒素上や、イミン炭素から離れた炭素上などおいて、N-スルホニル-アザ-Breslow中間体を分解させずに、かつ触媒的に官能基化できる可能性が示された。N-スルホニルイミン自体とは反応しない化学種がN-スルホニル-アザ-Breslow中間体とは反応することが明らかになったため、既存のNHCでは成し得ない分子変換の開発につながる重要な知見が得られたと言える。2021年度および2022年度の研究成果と併せ、N-スルホニルイミンの非従来型分子変換にF-NHCを活用する妥当性が強く支持されたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、現在までに得られたN-スルホニル-アザ-Breslow中間体の構造や電子的特性および反応性に関する知見を総合し、「熱的に脆弱なN-スルホニル-アザ-Breslow中間体の非従来型触媒的分子変換反応の開発」に主に取り組む。また、N-スルホニル-アザ-Breslow中間体の脱プロトン化が可能であることを踏まえ、イミンや中性のaza-Breslow中間体では困難な分子変換への展開を目指す。一方、アザ-Breslow中間体を酸化して得られるN-スルホニルイミドイルアゾリウム種は出発物質であるイミン自体よりも求電子性が高いことが予想されるため、イミン自体とは反応しない求核的な化学種を活用した分子変換も併せて検討する予定である。
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Causes of Carryover |
2023年度当初は、ご支給頂いた額を過不足なく使用する予定でしたが、本年度の終盤に本学理学研究科化学専攻のキャンパス移転が実施され、実験が一切できない期間が数か月継続しました。具体的な移転の日程が移転直前まで明示されず、支給額の使用予定および目処を立てることが困難であり、次年度使用額が発生いたしました。お認め頂けましたら、次年度使用額を試薬や器具等の消耗品購入費、旅費、および印刷代等に充当いたします。
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