2021 Fiscal Year Research-status Report
Interface and interphase: exploration of ion dynamics in solid-state composite electrodes
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21K14720
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大野 真之 九州大学, 工学研究院, 助教 (30892533)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 全固体電池 / キャリア輸送 / 複合体 / イオン伝導 / 固体界面化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
安価で豊富な硫黄を用いた次々世代全固体電池の実現には、イオンや電子の効率的な硫黄への供給が大きな課題となる。硫黄は高容量を実現する一方、イオン的にも電子的にも絶縁体であり、その利用には固体電解質や炭素と微細かつ緻密な複合化が不可欠である。本研究ではその硫黄正極実現への足掛かりとして「全固体複合材料中のinterfaceとinterphaseの制御の可能性」を問う。硫黄正極利用へ向けた全固体複合電極材料は、従来の遷移金属酸化物正極に比べて圧倒的に大きな界面濃度が要求されるが、複合体中の界面濃度の増加に伴い、キャリア輸送、特にイオン輸送が鈍化し、動作のボトルネックとなる。界面状態や電圧印加に伴う界面生成物の影響の理解を深化させることを目標として、複合電極材料中のイオン輸送向上への設計指針確立に向けた研究を展開している。 まず第一に、高い界面濃度を持つ複合体内での現象理解へ向け、直流分極測定や交流インピーダンス測定を通した複合体中の有効キャリア伝導度の定量的な電気化学測定手法の確立を行っている。この際、系の複雑性低減のため、活物質を含まないLi6PS5Cl-C複合体をモデル複合材料として用いて研究を進めてきた。複合体中のイオン輸送の定量的な評価が可能になると、複合体構成要素や複合体デザインそのものを変化させた場合の輸送への影響をより正確に知ることができる。輸送計測と並行して、電圧印加に伴う界面生成物の観測を、高度分光を用いて行っている。電圧印加による輸送の変化と界面生成物の相関から、界面近傍現象のより深い理解を得ている。 また、研究の進行に伴い顕在化する興味深い周辺現象の探索も行っている。電気化学的操作により予想される界面近傍における電荷の蓄積現象から着想を得た、試料の熱力学状態の微小な変化が固体電解質そのもののイオン輸送に及ぼす影響への仮説は、Naイオン伝導固体を用いて実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高界面濃度を有する複合体中の、interfaceとinterphaseが及ぼすキャリア輸送への影響の定量的な議論に向けた有効伝導度計測手法の確立に注力し、固体電解質と炭素で構成されるモデル複合体内キャリア輸送の印加電圧依存性の計測を達成した。直流測定と交流インピーダンス測定による有効電子伝導度と有効イオン伝導度を比較することで、双方から得られる数値に齟齬がないことを確かめた後、電圧印加後の複合体の交流インピーダンスの伝送線解析を行うことで、有効イオン伝導度の変化を電気化学的にとらえた。 さらにX線吸収測定や光電子分光を用いて、電圧印加により複合体内界面に生成するinterphaseを直接観測することで、材料そのものの電位窓と複合体の有効イオン伝導度ベースの電位窓には大きな隔たりがあることを明らかにした。これはすなわち、電圧印加初期に生成するinterphaseはイオン伝導性を保持することを示している。しかしより大きな印加電圧に伴い、interphaseがさらに変質し、複合体中の有効イオン伝導度は指数関数的に低減することを定量的に観測した。 また、上述の複合体中の界面と電圧印加による分解生成物の輸送への影響を探索する中で、固体電解質の不定比性が与える輸送への影響が懸念された。電圧印加時の界面においてキャリアの蓄積によるイオン輸送の変化の程度は現在までに明らかにされていないが、当初の計画に従い探索する系をNaイオン伝導体へと拡張する際に、固体電解質単体であっても、副相の変化に付随する化学ポテンシャルの変化で材料中の欠陥量が変化し、これがイオン輸送に大きく影響することを明らかにした。 上述の化学ポテンシャルの熱力学的な制御による化学ポテンシャルの影響の吟味等、研究の進行に伴い明らかとなった周辺の興味深い事象の掘り下げも同時に行うことができており、当初の計画以上に発展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、申請書の研究計画をベースに、全固体複合電極材料内のキャリア輸送向上と、それによる蓄電デバイス、特に大容量だが絶縁性で輸送の確保が難しい硫黄を利用した複合正極の性能向上を目的とした、高界面濃度を有する複合正極内の現象理解の深化に努める。 より具体的には、全固体複合電極材料内のキャリア輸送計測技術の向上、より複雑な複合体の計測を通した体積比・印加電圧・界面濃度・複合体内構造への依存性や相関の探索、電気化学的な安定性を示す電位窓と複合体中のマクロな輸送を担保できる電位窓の差異のエンジニアリング、高度分光によるinterphaseの状態観測に注力していく。中でも、「伝導の電位窓」ともいえる、複合体内の輸送を担保しうる電位範囲の拡張は、繰り返される充放電中にイオン輸送を担保することにつながるため、その実現の方策を予備実験を重ねて検討している。この目標に向けた界面現象のより詳細な理解のために、時間や距離のスケールが異なる複合体中輸送現象のマルチスケール観測へ向けて、実験方法等の議論を進めている。 種々の電解質・伝導助剤の電動への影響の検討も、計画通りに進めていく。これまでは申請書の計画通り、Li-アルジロダイト構造を持つLi6PS5Clを用いた複合体を、研究室内の標準材料として扱い研究を進めてきた。今後はより広い材料に探索範囲を広げ、固体電解質の材料群や組成も実験におけるパラメータとして利用していく。多様な固体電解質の候補材料から、まずは硫化物Liイオン伝導体を中心に検討を重ねていくことになるが、令和三年度内で化学ポテンシャルの変化で大きくイオン伝導の変化することを明らかにしたNa3SbS4などのNaイオン伝導固体電解質も利用し、探索対象をLiイオン伝導体のみならずNaイオン伝導体にも拡張していき、より一般性の高い設計指針の確立を目指して研究を展開する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額の欄が130,823円であった。この理由として、プレスセル作製の費用が想定より少なかったことがあげられる。そのため令和4年度においては当初の計画に加えて、さらに多くの電気化学セルの導入と電池セル関連の消耗品を用意し、研究のペースを加速させることを計画している。
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Research Products
(14 results)