2021 Fiscal Year Research-status Report
分子シミュレーションで探る化学蓄熱の分子論的な律速過程と反応性向上への道
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21K14723
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
稲垣 泰一 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00895766)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | モンテカルロ法 / 分子動力学法 / レアイベント / 化学蓄熱 / 分光計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、化学蓄熱材として用いる代表的な固気化学反応の構造変化およびその律速過程を分子レベルで明らかにし、実用化への課題となっている低い反応性を改善する方法の提案を目指している。分子レベルで化学反応過程を理解するには、分子シミュレーションによる研究が有効であるが、これまでのシミュレーション手法では「時間スケールが多様な拡散」と「待ち時間は長いが瞬間的に起こる化学結合の組み換え」が複雑に絡み合った固気化学反応の構造変化を扱うことが困難であった。 本年度は、この固気化学反応の構造変化の問題の解決を目指して分子動力学法とモンテカルロ法を組み合わせたシミュレーション手法を提案した。この方法は、拡散や化学結合の組み換えなどの素過程の動力学的な情報を得ながらも系が熱力学的な平衡状態へ緩和する過程を模倣することが出来る。この手法を典型的な蓄熱/放熱過程である水酸化マグネシウムの脱水/酸化マグネシウムの水和過程に適用したところ、手法の計算効率性と系を記述するモデルポテンシャル(ReaxFF)に問題があることが判明した。前者は実在系への応用ではモンテカルロ計算において棄却確率が非常に高くなり系の緩和が妥当な計算時間で達成されないことが問題となった。また、後者ではモデルポテンシャルで得られた界面水の構造が第一原理計算のそれと大きく異なることが明らかとなった。 また、近年の実験的研究では分光技術を用いて蓄熱材の構造変化に関する知見を得ている。実験事実と対比させながら分子シミュレーション研究を実施するには、分光スペクトルの理論計算が有効であると考えた。そこで、本年度は分光シミュレーションのプログラム開発とテスト計算としてバルクおよび界面水の赤外、ラマン分光計算も実施した。これにより、固気化学反応過程における各状態の分光シミュレーションを実施する基礎が整った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
想定していたよりもモンテカルロ法の効率が悪く、またモデルポテンシャルの精度が不十分であったという問題により、当初の予定であった水和反応の構造変化を明らかにするところまで到達しなかったため。また、分光計算による実験と計算の比較と現象の理解という新しい方向性が見出されたため、構造変化のシミュレーションに対する取り組みが遅くなった。
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Strategy for Future Research Activity |
提案構造の抽出と熱力学的な構造サンプリングの操作を分割するなど、モンテカルロ計算の効率を上げる対策を講じる。加えて、DFTB法やxTB法などを含めてモデルポテンシャルを検討、また必要に応じてパラメータフィッティングを行うことで、ポテンシャル精度を向上させる。その上で、当初より予定している酸化マグネシウムの水和反応をシミュレートし、その構造変化の詳細を提案することを目指す。さらにその後、得られた構造に対して量子化学計算を行い各素過程の反応障壁を見積もることで速度論解析に取り組み、水和反応の律速過程を探索する。 また、構造変化過程で得られた各状態における赤外分光計算に着手する。
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