2022 Fiscal Year Research-status Report
分子シミュレーションで探る化学蓄熱の分子論的な律速過程と反応性向上への道
Project/Area Number |
21K14723
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
稲垣 泰一 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00895766)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 化学蓄熱材 / 固気界面反応 / 分子シミュレーション / 酸化マグネシウム / 結晶核生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、化学蓄熱材として代表的な固気化学反応の構造変化およびその律速過程を分子レベルで明らかにし、実用化への課題となっている低い反応性を改善する方法の提案を目指している。 本年度は、酸化マグネシウム(MgO)の水和反応の分子シミュレーションを実施した。前年度で問題となったモンテカルロ法の高い棄却率は、カノニカルアンサンブルに基づくサンプリングの条件を外し、構造生成に注力することで回避した。また、モデルポテンシャル(ReaxFF)の精度の問題は部分的に電子状態計算(DFTB法、DFT法)を取り入れることで解決した。シミュレーションの結果、発熱的に起こりうる表面Mgの脱離過程が水和反応の初期過程として重要であることがわかった。特に、界面水分子のOH結合の解離により生じた表面OH基を周囲に持つMgが脱離しやすいことが示された。続く反応において、脱離したMgが元の表面の上に新しいMgO格子構造を構築する様子が観察されたが、その過程で界面領域に水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)結晶の核と見られる構造が確認された。この段階では表面MgOの約4割が脱離しており、核構造は最大でMg4原子が含まれていた。しかし、生成消滅を繰り返していたため未だ安定な構造はMgO構造であり、臨界核には至っていないことがわかる。Mgの脱離、核の生成消滅とともにMgO固体深部へ水素が侵入していく様子も観察されたが、その深部水素が存在する領域はほぼ完全なMgO格子構造を保っていた。より深部のMgO格子構造が壊れMg(OH)2核の生成に寄与するには、更なる界面の構造変化が必要であり、局所的に深部で核が形成されることは起こりにくいことが示唆された。 また、昨年度より並行して開始した界面構造の解析のための分光計算では、固体表面の水薄膜と水滴に対してラマンスペクトルを計算し、界面水の特徴的なスペクトル形状を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では水和反応の律速過程の解明を目指していたが、昨年度生じた問題の解決アプローチの模索(モンテカルロ法における提案配置の新規生成法の検討とモデルポテンシャルの改良)に時間を費やしたため、反応シミュレーションは核生成の確認に留まった。一方、新しく計画した分光計算においては順調であり、その結果は論文として投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度得られた核生成の過程の更なる解析を進めるとともに、過程のエネルギー変化をDFTB法やDFT法で改善し、素過程および律速過程の解明を試みる。また、シミュレーション系の拡大やレアイベント促進のためのポテンシャルスケーリングの増大を検討し、水酸化マグネシウムの結晶核成長の分子シミュレーションに挑戦する。さらに、同様な分子シミュレーション手法によって、酸化マグネシウムの水和の逆過程(吸熱過程)である水酸化マグネシウムの脱水の反応経路の探索(酸化マグネシウムの結晶核生成)にも取り掛かる。
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Causes of Carryover |
希望していた性能の計算機が当初の予定よりも安く購入できたため。また、学会開催地が近隣で、旅費が不必要になったため。差額分は研究発表のための次年度の旅費に当てる予定である。
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