2021 Fiscal Year Research-status Report
新機能分子創製のためのプレミルシナン・ジャトロファン群の統一的全合成法の開発
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21K14745
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤野 遥 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (60897023)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 全合成 / テルペノイド / 中分子 / 統一的合成戦略 / ラジカル反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
【背景】高酸化度プレミルシナン類は、A-D環より成る四環性炭素骨格上に多数の酸素官能基が密集したプレミルシノールを基本母構造として持つジテルペン天然物群である。本天然物群は、プレミルシノールが酸素官能基への多様なアシル基修飾様式により抗真菌活性・がん細胞毒性など多彩な生物活性を示すため、有用な創薬候補化合物群である。しかし、自然界からの単離による量的供給は困難であり、創薬応用のためには全合成が必須である。 一方で、本天然物群はその複雑な高酸化度縮環構造のため合成難度が極めて高く、その全合成例は報告されていない。本若手研究では、創薬研究への展開を志向し、反応性と官能基許容性の高いラジカル戦略を駆使する多彩な高酸化度プレミルシナン類の迅速かつ統一的な全合成法を確立する。本研究は、未成熟であるプレミルシナン天然物の合成化学の発展に寄与するのみならず、高度一般化可能な高酸化度複雑化合物の汎用的合成戦略を提示する有機合成化学・医薬化学重要な基礎研究である。 【方法・結果】高酸化度プレミルシナン類には、B環上C13, 14位の立体化学異性体が存在することが知られており、それぞれ重要な生物活性を有する類縁体が多数報告されている。本年度は、安価な市販原料より11工程・4工程でそれぞれ合成した高度に酸素官能基化されたA環フラグメントとCD環フラグメントとの分子間ラジカル二成分連結反応により、C13, 14位に関するジアステレオマーである2種類の重要な合成中間体を得た。すなわち、温和な中性条件下進行し高い反応性を持つラジカル反応の特性を活用することで、プレミルシノール中心部の込み入った炭素-炭素結合を完全な立体選択性に形成し、高収率(71-78%)でACD三環性骨格中間体を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、第一に、A環フラグメントとCD環フラグメントの連結により、高酸化度プレミルシナン類が有する11~13個のうち8~9個の不斉点を有する高酸化度三環性合成中間体を得ることに成功した。その後さらなる数工程の変換により、残るB環構築の検討を行う準備を完了している。すなわち、高酸化度プレミルシナン類の統一的全合成に向け、残る課題は立体選択的な分子内炭素-炭素結合形成によるB環構築と天然物に対応する多様なアシル基修飾を残すのみである。 また、第二に、上記合成戦略とは異なるフラグメントデザインを用いた別経路による高酸化度プレミルシナン類への合成アプローチを試みた。まず、CD環部に相当する二環性構造を四炭素ユニットとラジカル反応により立体選択的に連結し、次いでAB環部を遷移金属触媒反応により一挙に構築することで、ABCD四環性骨格を短工程で構築した。その後、数工程の変換を経てA環部の官能基化を完了した。この結果、A,C,D環部が完全に官能基化され9個の不斉点を有する重要な合成中間体を得た。全合成達成に向けた残る課題は、B環上C5位酸素原子の導入と官能基変換のみである。 以上のように、ラジカル二成分連結反応を鍵とする2つの異なるフラグメントデザインにより、高度に官能基化された重要な合成中間体をそれぞれ得ており、高酸化度プレミルシナン類の網羅的全合成の達成に向け順調に研究が進展している。本結果は、ラジカル化学の有用性を実証し、学術上重要な知見を与える。すなわち、一連の研究成果は、高酸化度プレミルシナン類にとどまらず、生物活性分子として多様な性質を示し創薬上有用なシード化合物としての活用が期待される多様な高酸化度天然物の合成化学の発展に大きく貢献する。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度の研究計画: まず、【研究実績の概要】・【現在までの進捗状況】にて上述の2つの異なる高酸化度プレミルシナン天然物の全合成ルートを完遂するため、詳細な検討を行う。すなわち、第一のルートでは分子内炭素-炭素結合形成によりB環部を構築し、さらなる官能基変換により全合成を達成する。また、第二のルートではC5位酸素官能基化とさらなる官能基変換により全合成を達成する。次いで、確立した合成ルートを最大限活用し、プレミルシノール骨格上の多数の酸素官能基に位置選択的なアシル基導入を順次行うことで、多様な高酸化度プレミルシナン類の網羅的全合成達成する。その後、高酸化度プレミルシナン類合成で用いた合成中間体を、縮環様式が異なる類縁天然物である高酸化度ジャトロファン類の網羅的全合成へと展開する。合成化学的に供給された多彩な高酸化度プレミルシナン類・ジャトロファン類の化合物ライブラリーが確立できれば、生物活性研究へ十分な研究資料の提供が可能となる。この結果、詳細な構造活性相関の解明を通じて、高酸化度プレミルシナン類・ジャトロファン類の生物活性を制御するアシル基の構造要件が明らかとなる。得た知見を活用すれば、天然物を創薬リード化合物としたより強力な生物活性を有する新機能分子創製基盤が提供できる。
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Causes of Carryover |
これまでの研究が順調に進展し、加えて全合成ルートの開拓に焦点を当てた結果、少量スケールでの実験が主となった。その結果、当初の計画と比較して、有機合成試薬・有機溶媒、精製用シリカゲル、重溶媒への経費を大幅に抑制できた。また、新型コロナウイルスの蔓延の影響で、予定した国内外での研究成果発表のために出張経費が無くなった。その結果、次年度使用額が生じた。 次年度は、多様な高酸化度プレミルシナン類・ジャトロファン類の網羅的合成を行うにあたり、大量の基質合成を行う必要がある。また、国内外の学会における研究成果報告を行うことを予定している。そのため、もともと請求している使用額に加え、次年度使用額分の金額も必要となる。
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Research Products
(3 results)