2021 Fiscal Year Research-status Report
海洋生物がもつ末端アルキン天然物のケミカルスペースの開拓
Project/Area Number |
21K14747
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岩崎 有紘 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00754897)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 海洋天然物 / 末端アルキン / 熱帯病 / 海洋シアノバクテリア / ウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
末端アルキンをもつ海洋天然物に注目し、構造と生物活性の多様性の解明を目的とする本研究において、今年は以下に述べる実績をあげた。 (1)構造の多様性について:真栄田岬で採集した海洋シアノバクテリアより、末端アルキンをもつ環状リポペプチドを単離した。本化合物は、ペプチド鎖と末端アルキン含有脂肪酸部からなる構造であり、脂肪酸部にはアシル化された水酸基とgemジメチル構造をもつ。ヒト子宮頸がん細胞を用いた細胞増殖阻害活性の結果、本化合物は細胞毒性を示さないことを明らかにした。現在、熱帯病原虫に対する増殖阻害活性(トリパノソーマおよびマラリア)とウイルス感染阻害活性(エボラウイルスおよびCOVID-19)の評価を実施している。また、大度海岸で採集したOkeania属海洋シアノバクテリアより、新規末端アルキン含有鎖状リポペプチドを2種単離し、オオドオケアニンAおよびBと名付けた。本化合物が脂肪細胞分化促進活性をもつこと見出した。 (2)生物活性の多様性について:当研究室で過去に発見した末端アルキン含有リポペプチド(クラハインおよびジャハナイン)のウイルス感染阻害活性(エボラウイルスおよびCOVID-19)の評価を実施している (3)探索対象生物の拡張に向けた取り組みについて:探索対象生物を拡張するために実験環境を整備した。従来は海洋シアノバクテリアやカイメン、ホヤといった採集が容易で比較的大型の集合体を形成する生物をソースとしてきたが、あらたに海洋放線菌や海洋糸状菌を対象とした探索を実施するために、菌類の培養環境を構築した。現在、特定の菌類を分離するための選択培地について検討を進めており、一部の海洋放線菌についてはその分離と大量培養に成功した。現在、成分探索を実施している。 (4)その他:末端アルキン天然物を探索する過程で7種の新規天然物を単離し、その構造と生物活性を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海洋シアノバクテリアを探索源とし、末端アルキンをもつ新規天然物3種の発見に成功した。既知化合物と比較すると、本化合物の構造は新規性が高いとは言えないが、本研究でもちいる探索手法が有効であることを示す結果が得られたことは意義が大きい。 また、細胞および熱帯病原虫に対する増殖阻害活性評価に加え、新たにエボラウイルスとCOVID-19を対象とするウイルス感染阻害活性の評価が可能となった点も重要な進捗である。ウイルス感染阻害活性試験は天然物の生物活性評価法として一般的ではない。哺乳類細胞や原虫をもちいた従来法とまったく異なる視点から化合物の評価を行うことで、末端アルキン含有天然物のこれまで見過ごされてきた生物活性の発見が期待される。 さらに、海洋放線菌や海洋糸状菌の培養環境が整った点も意義が大きい。末端アルキン含有海洋天然物の構造多様性を解明するにあたり、新たなソースの開拓は重要である。なぜならば、同じ探索源からは同じ基本骨格をもつ天然物が得られる傾向が高いためである。くわえて海洋放線菌や海洋糸状菌は、凍結した微量のカイメンやホヤからも分離できるため、少ないフィールドワーク回数で充分なサンプルが得られる。このことはコロナウイルス感染防止の観点から、南西諸島の離島でのフィールドワークが制約を受ける昨今の情勢において、研究を効率的に進める有効な手段となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
構造多様性の解明については、新しい骨格をもつ末端アルキン含有天然物の発見が望まれる。従来取り組んできた海洋シアノバクテリアやカイメンに加え、海洋放線菌、糸状菌を探索対象に加えることで、これに挑戦する。今年度の研究を通じ、菌類の基本的な培養環境は整った。一方で、二次代謝産物生産能の高い菌を選択的に分離するための培養条件の探索が不充分である。まずはこれに着手し、見出した条件をもとに培養した菌より新規末端アルキン天然物の探索に取り組む。海洋生物の採集は、南西諸島の離島でのフィールドワークを通じて行う。これまでの研究を通じ、海洋シアノバクテリアのふくむ二次代謝産物の多様性は、離島間で差が大きいことを見出している。こうした知見を踏まえ、採集地の選定を効率的に行う。 生物活性の多様性の解明については、従来取り組んできた細胞増殖阻害活性および熱帯病原虫増殖阻害活性に加え、ウイルス感染阻害活性と細胞内イオン濃度制御活性に注目して研究を展開する。ウイルス感染阻害活性については、前述の通り、細胞や原虫の“増殖”とまったく違う視点からの評価となる。くわえて広く普及している生物活性評価法ではないため、希少な生物活性(および作用機序)の発見が期待される。一方、細胞内イオン濃度制御活性に着目した理由は、最近の我々の研究成果に基づくものである。近年、海洋シアノバクテリアの生産する天然物が、細胞内のイオン濃度の変動を誘導する傾向が高いことを、我々のグループは見出してきた。これらの知見に基づき、末端アルキン含有天然物のイオン濃度制御活性を評価する。化学生態学的な意義の解明につながる発見が期待される。
|
Causes of Carryover |
COVID-19の影響で、研究材料となる海洋生物の入手の機会が想定よりも少なかった。そのため全体の実験量が減り、試薬などの物品費の購入が減ったことが残額が生じた理由である。少額(136532円)であるため、次年度の研究の物品費(おもに試薬)の購入に充てる。
|
Research Products
(17 results)