2021 Fiscal Year Research-status Report
脂溶性化合物シコニンの分泌・生産における脂質輸送タンパク質LTPの役割の解明
Project/Area Number |
21K14828
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
市野 琢爾 京都大学, 生存圏研究所, 研究員 (80796441)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ムラサキ / シコニン / LTP / 細胞外分泌 / 植物特化代謝産物 |
Outline of Annual Research Achievements |
薬用植物ムラサキは、根から脂溶性の赤色色素シコニンを生産・分泌することで、病原菌等からの防御に役立てている。シコニンは小胞体で生合成された後、細胞外で顆粒状の形態として蓄積されるが、その分泌や蓄積のしくみに関しては殆ど分かっていない。我々はシコニン生産時に顕著な発現誘導を示す2つの脂質輸送タンパク質 (LTP) LeLTP1とLeLTP2を見出した。本研究では、ムラサキ由来のこれら2つのLTPの局在解析と生化学的解析を行い、LTPタンパク質の分子機能を明らかにするとともに、ムラサキにおいてシコニン生産への関与の有無を検証する。また、LTPと相互作用するタンパク質やLTPに発現制御される遺伝子の探索を行う。これらの実験を通して、LTPがシコニン生産・分泌にどのように関与しているのかを明らかにする。 本年度は、LeLTP1遺伝子のクローニングを行い、局在解析、相互作用解析、毛状根での発現抑制株の作製のそれぞれに用いる発現ベクターを構築した。ベンサミアナタバコを用いた局在解析の結果、LeLTP1が小胞体と細胞外の両方に分布することを見出した。LeLTP1と異植物種におけるホモログとの間のアミノ酸配列の比較によって、複数のシステイン残基が保存されていることを見出し、アミノ酸置換を引き起こす変異型LeLTP1を作製した。また、アグロバクテリアA13株を用いたムラサキ毛状根への遺伝子導入法により、LeLTP1-GFP発現毛状根とLeLTP1遺伝子の発現抑制毛状根の作製を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ムラサキLTPのシコニン生産・分泌における役割を明らかにするため、以下の3つの研究項目を実施している。 ①ムラサキLTPの分子機能解析:LeLTP1の局在解析を実施した。蛍光タンパク質VenusとLeLTP1の融合タンパク質をベンサミアナタバコの本葉で一過的に発現させ、共焦点レーザー顕微鏡で蛍光観察を行った。その結果、LeLTP1-Venusは小胞体と顆粒状構造に分布することがわかった。さらに、マンニトールを用いて原形質分離させたところ、LeLTP1の蛍光は細胞外にも検出されることがわかった。加えて、LeLTP1のタンパク質としての分子機能に迫るため、保存された4つのシステインと推定糖鎖修飾部位にアミノ酸置換をもたらす点変異を導入した変異型LeLTP1遺伝子をクローニングにより作製し、これらを発現するような植物用ベクターを構築した。また、LeLTP1のムラサキにおけるシコニン生産への寄与を調べるべく、発現抑制毛状根の作製を進めた。 ②ムラサキLTPの相互作用因子の探索:LeLTP1と既知のシコニン生合成酵素との相互作用解析を実施した。LeLTP1-GFP及びHAタグを融合させたシコニン生合成酵素をベンサミアナタバコで一過的に共発現させた。タバコ葉からタンパク質を抽出し、共免疫沈降に供し、その産物をイムノブロットに供した。その結果、LeLTP1は既知の生合成酵素の一つと相互作用することがわかった。LeLTP1-GFPの発現ベクターを構築した。構築した発現ベクターをアグロバクテリアA13株に導入し、ムラサキ切片への感染を行った。コントロールとしてGFP発現ベクターでも同様の実験を進めた。ムラサキ切片から毛状根が発生してきたので、継代・培養を行った。 ③LTPの遺伝子発現ネットワークの解明:上記、研究項目①でLeLTPの発現抑制毛状根を作製し次第、実施する項目である。
|
Strategy for Future Research Activity |
①ムラサキLTPの分子機能解析:変異型LeLTP1の機能解析として、ベンサミアナタバコを用いた局在解析及びイムノブロットによる生化学的解析を行う。LeLTP1の発現抑制毛状根の作製を進め、そのシコニン生産能をHPLCにより評価する。またLeLTP2のクローニングを進め、LeLTP1と同様の実験を行う。 ②ムラサキLTPの相互作用因子の探索:LeLTP1-GFP発現毛状根の系統を確立し、免疫沈降及びプロテオーム解析によって、LeLTP1と相互作用するタンパク質を探索する。アグロバクテリアA13株を感染させ、LeLTP2-GFP発現毛状根を作製する。 ③LTPの遺伝子発現ネットワークの解明:両LeLTPの機能欠損ムラサキ毛状根を作製し、発現変動している遺伝子を見つけるためにRNAseq解析に供する。
|
Causes of Carryover |
本年度は発現ベクターを構築し、順次、ムラサキ毛状根を作製する予定であった。しかし、2021年春に毛状根作製に用いるムラサキの無菌培養の多くがコンタミによって失われてしまったため、ムラサキを用いた実験を当初の計画通りに進めることができなかった。生き残った少数の無菌培養個体の培養と継代を継続的に繰り返したことで、本年度末には実験に使用するのに十分な量の個体数を確保することができた。次年度には、本年度作製予定分を含めると当初の予定以上の毛状根を作製する必要がある。加えて、作製した毛状根を用いたRNAseq解析や免疫沈降、プロテオーム解析といった比較的費用のかかる実験を予定している。
|