2021 Fiscal Year Research-status Report
ファイトプラズマによる葉化病の分子構造基盤解明と新規防除法開発
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21K14853
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩渕 望 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (00888753)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ファイトプラズマ / 葉化 / ファイロジェン / プロテアソーム / MADS-box転写因子 / ユビキチン |
Outline of Annual Research Achievements |
ファイトプラズマは昆虫によって媒介され、世界中の作物生産に甚大な被害を及ぼす。その病原性因子の1つであるファイロジェンは植物の花形成に関わるMADS-box転写因子(MTF)に結合しプロテアソームを介した分解を誘導し、ファイトプラズマに共通の症状の1つ、花の「葉化」を引き起こす。同時に、ファイロジェンはポリユビキチン化タンパク質に結合してプロテアソームへと運ぶシャトルタンパク質であるRAD23とも結合するため、ファイロジェンによるMTF分解においてファイロジェン/MTF/RAD23の三者を主軸とした複合体形成が仮定されているが、その実体は明らかになっていない。ファイトプラズマの病原性に関する分子構造基盤の解明のため、ファイロジェン/MTF/RAD23が相互作用する際に必要な分子構造や結合様式に基づく複合体形成機構の統合的な理解が必要と考えられる。同時に、ファイロジェンはファイトプラズマの病原性および伝染性を高めると考えられているため、ファイトプラズマに対する新規防除法の開発に向けた分子基盤を得る上でも極めて重要である。 本年度は、シロイヌナズナの持つMTFおよびRAD23について、様々な長さの欠損変異体を作出し、yeast two hybrid法および共免疫沈降法を用いてファイロジェンとの結合に重要な領域を絞り込んだ。続けて、絞り込んだ領域においてファイロジェンとの結合に重要なアミノ酸残基を特定するため、植物間で保存されたアミノ酸をアラニンに置換した変異体を作出し、ファイロジェンとの結合性を検証した。さらに、蛍光標識した各タンパク質の局在解析、および共免疫沈降法を用いてファイロジェン/MTF/RAD23の三者間相互作用を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
結合解析により、ファイロジェンはMTFどうしの四量体化を担う領域に対して、四量体化関連残基を介して相互作用することが示唆された。RAD23においては、ファイロジェンはユビキチン結合ドメインであるUBA2ドメインと結合することが確認された。いずれの領域も本来は宿主因子間の相互作用を担う領域で、植物間で高度に保存されるため、ファイロジェンが広範な植物に葉化を誘導することを裏付ける知見と考えられた。 さらに、植物細胞内でのファイロジェン/MTF/RAD23のタンパク質間相互作用を解析した結果、MTFとRAD23はファイロジェンを介して相互作用し、三者からなる複合体が形成されることを明らかにした。興味深いことに、この複合体に含まれるファイロジェンはユビキチン化される一方で、このユビキチン化はMTFの分解に必須でないことが明らかになった。以上より、ファイロジェンはユビキチンの代わりに標的MTFとRAD23の保存領域に結合し、両タンパク質の相互作用を直接仲介することで、標的因子のユビキチン非依存的なプロテアソーム分解を誘導すると考えられた。 以上を踏まえ、当初の計画以上に進展していると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
ファイロジェンはMTFどうしの多量体化を担うKドメインと類似したαヘリックス構造を形成し、αヘリックス上の複数のアミノ酸がMTFとの結合に重要である。一方で、それ以外のアミノ酸の影響およびRAD23との結合に重要なアミノ酸は不明である。そこで、ファイロジェンファミリー内で保存されているアミノ酸をアラニン置換した変異体を作出し、MTFおよびRAD23との結合に重要なアミノ酸を網羅的に特定する。 同時に、標的因子の最小結合領域は本来の機能を保持していないが、競合阻害によりファイロジェンの機能阻害ペプチドとして応用できる可能性があるため、最小結合領域がファイロジェンの機能に与える影響を検証する。具体的には、Nicotiana benthamiana葉でファイロジェンと標的因子の全長に加えて、最小結合領域を共発現させたのち、共免疫沈降法によりファイロジェンと標的因子全長の結合性を検証する。また、植物体で葉化症状を抑制できるか検証するため、ファイロジェン発現植物に最小結合領域を発現させ、花の形態を観察する。
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Causes of Carryover |
本年度は、ファイロジェンの網羅的な変異解析により、MTFおよびRAD23と結合する際に重要なアミノ酸を特定する予定だった。しかしながら、植物細胞内でのファイロジェン/MTF/RAD23のタンパク質間相互作用解析の過程でこれら三者複合体に含まれるファイロジェンがユビキチン化されることが明らかになった。一般的なプロテアソームによるタンパク質分解においては、標的タンパク質がユビキチン化されることが必須であるため、当初の計画を変更し、ユビキチン化がファイロジェンの機能に与える影響を検証したため、未使用額が生じた。そのため、ファイロジェンの網羅的な変異解析を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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Research Products
(13 results)