2021 Fiscal Year Research-status Report
ウイルスが宿主の行動を操るには?:生得的行動を司る宿主因子の機能実証
Project/Area Number |
21K14860
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
國生 龍平 金沢大学, 生命理工学系, 博士研究員 (90756537)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | カイコ / バキュロウイルス / 宿主行動操作 / T3up1 / ノックイン |
Outline of Annual Research Achievements |
病原体や寄生生物による宿主行動の利己的な操作は自然界で普遍的に見られる現象だが、その詳細なメカニズムには未解明の謎が多く残されている。申請者は行動操作のモデルケースとして、バキュロウイルスとその宿主であるチョウ目昆虫を材料に研究を進めてきた。その結果、バキュロウイルスは宿主昆虫の脳に感染し、ある宿主遺伝子(T3up1)の発現を上昇させることで脳の行動制御中枢の活性を操っている可能性が示唆された。そこで、本研究課題では宿主昆虫におけるT3up1の本来の機能を明らかにし、バキュロウイルスによるT3up1発現操作の具体的な分子メカニズムに迫ることを目標とする。 令和3年度は、過去に途絶えてしまったT3up1ノックアウトカイコ系統をCRISPR-Cas9を用いて再び作出した。また、T3up1遺伝子のstopコドン直前に2A peptide-Gal4遺伝子をインフレームでノックインしたT3up1-2A-Gal4カイコ系統を作出できたことは大きな進展である。今後はこれらのカイコ系統を用いて、T3up1およびT3up1発現細胞の詳細な性状を調査する予定である。一方、本研究では頭部に限局したヒートショックにより頭部特異的なT3up1の過剰発現やノックアウトを計画しているが、コンディショナルノックアウトに使用するUAS-Cas9-sgT3up1カイコ作出用のドナーベクター作成に難航しているため、令和4年度は引き続き当該系統の作出を遂行する。その他、昨年度は抗T3UP1ペプチド抗体を作成したので、次年度は、これを用いてT3UP1タンパク質の発現組織/細胞や発現時期、および血リンパ液中への分泌性についての調査を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カイコにおいてインフレームでの遺伝子ノックインは難易度の高い技術であるため、当初の予定ではより時間がかかると予想していたT3up1-2A-Gal4カイコ系統の作出に成功したことは想定以上の進展である。一方、令和3年度はコンディショナルノックアウトに使用するUAS-Cas9-sgT3up1カイコ系統の作出を予定していたが、ドナーベクターの作成に難航し未だ当該系統が得られていないので、その点に関しては予定より遅延していると考えている。また、過去に途絶えてしまったT3up1ノックアウトカイコ系統を作出し直したほか、抗T3UP1ペプチド抗体を作成した。令和4年度は昨年度得られたこれらのリソースを活用することで、T3up1の機能やバキュロウイルスによる発現制御メカニズムの解析が進展することが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度はまず、作出した抗T3UP1ペプチド抗体を用いたウエスタンブロッティングや免疫染色実験を行うことで、T3UP1タンパク質の発現細胞や発現時期について詳細なプロファイルを調査する。同様に、T3up1 mRNA発現についてもRT-qPCRやin situハイブリダイゼーション法によりプロファイリングを行う。 また、昨年度に引き続きUAS-Cas9-sgT3up1カイコ系統の作出を進め、作出した系統とヒートショックGAL4カイコ系統のF1雑種を用いて頭部特異的なT3up1ノックアウトを試みる。同様に、作出済のUAS-T3up1カイコ系統を用いて頭部特異的なT3up1過剰発現を行うことで、脳におけるT3up1の機能と行動との関係性を明らかにする。 昨年度はTAL-PITCh法を用いたノックインにより、T3up1-2A-Gal4カイコ系統を作出できた。そこで、令和4年度はこの系統を用いることで、脳におけるT3up1発現神経細胞の位置や個数・投射パターンなどの基本的な性状を明らかにするとともに、破傷風毒素軽鎖や光遺伝学を用いて当該神経細胞の活動を人為的に操作し、行動操作との関連性の実証を目指す。
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Causes of Carryover |
昨年度は遺伝子組換えカイコやゲノム編集カイコの作出が主な成果であったが、一部のカイコ系統は作出に難航しいまだ傾動樹立に至っていない。また、他の系統に関しても作出が完了したばかりであり、これから性状解析を始める段階である。そのため、当初性状解析に使用するために計上していた試薬(タンパク質/mRNA発現解析関連)を昨年度は使用しなかったので、こちらの経費については次年度に使用する予定である。 また、新型コロナウイルス感染症により、昨年度も参加を予定していた学会がオンライン開催に変更になったため、当初使用を計画していた旅費が必要なくなった。
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