2021 Fiscal Year Research-status Report
真社会性昆虫シロアリにおける分業システムとカースト分化運命決定機構の解明
Project/Area Number |
21K14863
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高田 守 京都大学, 農学研究科, 助教 (50806958)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 社会性昆虫 / 分業 / シロアリ |
Outline of Annual Research Achievements |
社会生活を営む生物では、高度な分業が発達しており、異なる社会役割を担う個体が集まることにより、集団としての性質が創発している。そ の役割分業の決定メカニズムを知ることは、複雑に組織化された社会の成り立ちについての理解を飛躍的に深めるだろう。社会性昆虫であるシ ロアリは、両性が協働する社会を維持しており、繁殖と労働の分業に加え、雌と雄の間でも役割の分業が見られる。このような性という遺伝的 に不変な要素の上に、分業という可塑的な要素が加わった分業システムは、不妊カーストの出現という最重要課題へのアプローチを可能にする 画期的な系である。本研究は、社会性昆虫の根幹を成す分業システムとその決定に関わる分子機構を解明する。 遺伝子発現パターンのカースト特異性と性特異性の関連性を解析し、役割の異なるカースト・齢の特定と、性毎の役割の一貫性を明らかにする 。ヤマトシロアリのワーカー・ソルジャー・翅アリの雌雄、幼虫(1齢・2齢)、ワーカー・ニンフ(3齢・5齢)の雌雄のRNA-seq解析を行 い、孵化後からカースト分化・役割分業に至るまでの各カースト・齢・性別の遺伝子発現データベースを作成した。これと並行してヤマトシロアリのゲノム解読を行い、これを完了した。これらを基に、発現パターンのカースト特異性と性特異性について解析作業を進めている。野外調査では、幼虫の分化運命に父性・母性効果が大きく影響することを突き止めた。本結果は、ゲノム上の塩基配列によらない遺伝因子が、真社会性昆虫の分業システムを支えていることを示すものであり、分業システムの分子基盤の解明につながる端緒となることが期待される成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目の計画として順調であったと言える。具体的には、孵化後からカースト分化・役割分業に至るまでの各カースト・齢・性別の遺伝子発現データベースの構築とゲノム解読が完了したことにより、発現パターンのカースト特異性と性特異性について解析作業を行う基盤が完成した。また、ゲノム上の塩基配列によらない遺伝因子が、真社会性昆虫の分業システムを支えていることを証明されたことにより、分業システムの分子基盤の解明につながる端緒を開くことができた。本プロジェクトの中で発見されたシロアリにおける托卵に関する世界で初めての報告が国際学術誌に掲載された他、シロアリの寿命に関する総説も掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
作成したヤマトシロアリのリファレンスゲノムにRNA-seqデータを対応させ、各カースト・齢・性別毎のトランスクリプトームマップを作製する。機能の判明している遺伝子群の発現パターンを主成 分分析により解析し、各カースト・齢・性別間で比較し、役割の異なるカースト・齢の特定と、性毎の役割の一貫性を示す。 次に、遺伝子発現パターンが顕著に異なるカースト・齢・性別について行動解析を行い、コロニー内で担う役割の差異を明らかにする。王・女 王のいる王室を起点に各個体が存在していた位置、観察された行動の種類を比較し、それぞれのカースト・齢・性別がどこで、どのような役割 を担うか明らかにする。
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Causes of Carryover |
本研究課題は、当初の研究計画の時点より、研究成果の積極的な公表、社会・国民への発信力を高めるため、論文をオープンアクセスジャ ーナルへ投稿することを計画していた。当初予定では来年度に投稿予定であったが、投稿準備が当初計画より早く完了し、今年度に投稿可能となったが、今年度予算では不足するため前倒し支払請求が必要となった。次年度使用額が生じた理由は、当初計画よりも早い段階で論文の投稿ができるようになったために次年度分を繰り上げを要請するものである。よって、研究計画に元から組み込まれていた支出であり、研究目的の達成に影響を与えるものではない。
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Research Products
(6 results)