2022 Fiscal Year Research-status Report
ミドリイシサンゴの環境ストレス耐性の遺伝的基盤:ゲノムの種内多型から探る
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21K14898
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
仮屋園 志帆 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 学振特別研究員 (00815334)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | リシークエンス / ゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
サンゴ礁をつくる造礁サンゴ(以下サンゴと表記する)は、生物多様性の高いサンゴ礁生態系の基盤である。この造礁サンゴは、水温の上昇や海洋の酸性化といった地球規模の環境変動により、その生息数が減少している。生息環境からのストレス(環境ストレス)によりサンゴの個体が受ける影響には、個体差があること、この個体差にはそれぞれの個体のゲノム情報の違いが関与することがわかってきている。だが、具体的にどのような遺伝子が関わるのかという知見は少ない。 そこで本研究では、サンゴの環境ストレス耐性の個体差がどのように生み出されてきたのかを、コユビミドリイシ集団を用いたゲノム比較解析、ストレス耐性に関連するゲノム領域の分子進化解析により検討している。 本年度は、サンゴのゲノム塩基配列データを用いて、「ある遺伝子をもつ個体ともたない個体が存在する」という遺伝子有無の多型を探索した。 この多型は遺伝子の機能の有無に直結するため、個体間の違いに影響する可能性がある。コユビミドリイシの全ゲノム塩基配列を参照配列として、遺伝子有無の多型を探索したところ、タンパク質の安定性に関わる1遺伝子を含むあるゲノム領域が、研究対象の1集団で欠失している可能性が高いことが示された。この欠失領域に存在する遺伝子は、先行研究により、サンゴの高温への応答や、サンゴの浮遊性の幼生が固着性の成体へと変態する際の応答に関わることが予想されている遺伝子であった。より詳細な研究が必要ではあるが、このような遺伝子を持つ群体と持たない群体が存在することにより、ストレス耐性の違いが生じる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
遺伝子有無の多型の探索と、サンゴと共生する褐虫藻についての解析は、次の通りに実施することができた。高温ストレス耐性の異なる個体間において、サンゴと共生する褐虫藻の種類が異なるということが先行研究で報告されている。そこで、研究対象の2集団間で褐虫藻の種類に違いがあるのかを、ゲノム塩基配列データを用いて確認した。 その結果、2集団間では褐虫藻に大きな違いはない可能性が高いと考えられた。遺伝子有無の多型を検出し、タンパク質の安定性に関わる1遺伝子を含むあるゲノム領域が、研究対象の1集団で欠失している可能性が高いことを明らかにした。 分子進化解析は次の理由から遅れている。初年度に、活性酸素から生体を守ることにつながる、ペルオキシダーゼ活性をもつと予想される遺伝子が本研究であつかう2集団間で異なることを示した。そこで、本年度はこの遺伝子のミドリイシ属での分子進化解析を実施した。遺伝子の相同性検索より、該当遺伝子の近傍に塩基配列の相同性の高い複数の遺伝子が存在することが明らかになった。このようなゲノム領域はゲノム塩基配列決定時にエラーが起こりやすいと考えられている。またRNAシークエンス(RNA-seq)データを解析したところ、RNAシークエンスから得られる結果とゲノム上で遺伝子領域として予想されている領域に不一致があることを明らかにした。これら遺伝子の遺伝子予測が正しいかを確かめる必要があり、分子進化解析が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
候補遺伝子の分子進化解析については、参照する複数のミドリイシ属のサンゴの全ゲノム塩基配列の遺伝子予測を確認して実施する。遺伝子有無の多型の候補遺伝子については、分子生物学実験により実際のゲノム上での有無を検証する。公共データベースに公開されているコユビミドリイシのゲノム塩基配列データを用いて、遺伝子有無の多型の分布を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究の結果、候補となった遺伝子の特性(多重遺伝子)により、計画通りに研究が進まなかった。また新型コロナウイルス感染症の影響で遅れが生じてしまった。次年度の予算としては、主に論文の英文校正と掲載料に使用する計画である。論文の投稿中に、追加の実験の必要性が生じた場合には、追加の実験に関わる消耗品を購入する。
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