2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of environmental DNA technology for estimating the distribution of marine fishes and monitoring its seasonal changes
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21K14899
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村上 弘章 京都大学, 森里海連環学教育研究ユニット, 特定研究員 (60880721)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 環境DNA / 分布推定 / メタバーコーディング / 多様性 / リアルタイム定量PCR / マアジ / カタクチイワシ / 水産資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
舞鶴湾に約400 m間隔に配置された網羅的な100定点における表層、中層、底層で取得した環境DNA (eDNA)サンプルを用いて、マアジのミトコンドリアDNAの100 bp程度 (短鎖領域)を対象としたeDNA濃度の定量を行い、市場からの大量の本種のeDNAが検出され、実際に生息する魚の分布推定に大きな障害になることが示された。 そこで、より長い750 bp程度の領域 (長鎖領域)を対象とした本種のeDNA濃度を Jo et al. (2017)に従い、定量した。その結果、短鎖領域を対象とした解析よりも、顕著に検出地点が減り、また全体的にeDNA濃度も薄い傾向が示された。すなわち、短鎖領域を対象としたものよりも、eDNAの検出・非検出、あるいはeDNA濃度の濃淡がより鮮明になり、従来の対象領域と全く異なる検出のされ方を示した。 さらに、上記の全サンプルを用いて、同種の核DNAを対象とした解析もJo et al. (2019)に従い、行った。その結果、短鎖領域、長鎖領域を対象とした場合よりも、顕著に高濃度のeDNAが湾全体から検出された。このことから、海域において、魚の在不在を推定する場合は、より検出率の高い核DNAを対象とした解析が推奨されるかもしれない。同様の解析をカタクチイワシに関しても行っており、魚種により検出される濃度と分布様式が異なる事が示された。このように、希少種の在不在の推定や分布推定といった、それぞれの研究の目的に応じて、対象とするDNA領域を変える、または組み合わせる事の重要性が示された。 一方で、全サンプルを対象としたeDNA定量メタバーコーディング解析も行った。その結果、湾内から多魚種の海水魚のみならず、淡水魚も検出され、湾レベルでの水平方向・鉛直方向両方における高解像度のeDNAビッグデータが集積された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画にあった舞鶴湾100定点、各定点3水層のマアジとカタクチイワシのeDNAの多マーカー解析、全1200サンプル (100定点×3水深×2魚種×2対象領域)を予定通りに完了した。現在、それらのeDNA濃度の結果の精度に関して、リアルタイム定量PCRの検量線やCt値の結果などを指標に、濃度値データの精査を行っている。また、それらと計量魚群探知機により推定された両種の分布、水温・塩分などの環境要因との比較は、解析準備中である。 当初、同海域の季節を通した新規のサンプリングを行う予定であったが、研究代表者の異動により、次年度の調査継続が困難と判断したため、断念した。その代替として、上記の全サンプルのeDNA定量メタバーコーディング解析を行った。eDNA定量メタバーコーディングは、最新の環境DNA解析のひとつであり、ユニバーサルプライマーを用いた網羅的な魚類相解析に加え、人工的に作製した既知の濃度のDNAを同時に解析することで、全魚種のeDNA濃度も定量可能である (Ushio et al. 2018)。これにより、舞鶴湾での1回のみの調査でありながら、全100定点×3水深における全魚種のeDNA濃度のデータが集積された。これにより、湾の広域レベルでは、これまでにない高い解像度でのeDNAビックデータのスナップショットが得られた。現在、この結果の魚種データの精査、すなわち既存の分布域に関する情報などと照らし合わせて、実際に同海域に生息したものか否か、また、海産魚、淡水魚、外来種や絶滅危惧種などといったタグをつけることにより、続く群主構造解析といった統計解析を行う準備をしている。加えて、海域だけでなく、河川での複数地点・複数回の新規のeDNAサンプリングも行い、海産魚の河川遡上生態の解明の一助とできた。
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Strategy for Future Research Activity |
舞鶴湾のマアジとカタクチイワシのeDNAの多マーカー解析の結果と、魚群探知機で推定された両種の反射強度との相関を調べる。それにより、研究計画に記載された通り、どのDNAマーカーが最も分布推定に適しているかを評価する。また、魚群探知機の結果だけではなく、環境要因をも考慮したGLMMをベースとした統計解析を行うことで、eDNAの検出に影響する環境変数を探索する。また、産卵期には核DNAの放出量の割合がミトコンドリアDNAよりも高くなることが報告されていることから (Bylemans et al. 2017)、天然海域で、そのような事象を検出可能かも予測する。 一方で、eDNAメタバーコーディング解析に関しては、より多角的な解析が可能である。海域での全魚種の環境DNAの分布がどのように配置されているかなどの基礎的情報に加え、各定点と水深ごとの多様性、群集構造を明らかにする。100定点には舞鶴湾の西湾と東湾、河口付近、沿岸や沖合といった物理環境が顕著に異なる海域が含まれていることから、それらの要因が、魚種の多様性にどのような影響を与えるかを調べる。さらに、魚の生態、すなわち分布水深や沿岸性、沖合性などの特徴をeDNAが捉えられるかを検証する。これら2テーマを投稿論文として執筆し、報告する。また、上記の研究は、日本海側の舞鶴湾を拠点として行われてきた。今後、東北沿岸に調査海域を移し、地点間の比較や東日本大震災後の生態系を評価するためにeDNAを用いようと考えている。
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Causes of Carryover |
計画的に21年度予算の130万円を支出する予定であったが、460円が支出できなかった。22年度に消耗品の購入に使用予定である。
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Research Products
(3 results)