2023 Fiscal Year Research-status Report
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21K14917
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
長澤 貴宏 九州大学, 農学研究院, 助教 (70775444)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 粘膜免疫 / 魚類免疫 / 創傷治癒 / 魚類養殖 / プロテオーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では魚類養殖において「体表に生じた傷を速やかに修復する能力」が病害対策に重要であると考え、そうした傷を負った際にその箇所を保護し修復するタンパク成分が分泌されると仮説を立てた。物理的刺激を受けた魚の体表粘液を経時的に回収し、刺激によって出現、増加するタンパク成分の検出、特定を目指した。魚類の体表粘膜修復機構に関する知見を得ると共に、創傷修復に重要となる成分を特定して(養殖現場等における)体表粘膜コンディションの評価指標として活用することを目指す。 研究期間の3年目となる2023年度は1,2年目の試験結果を基に試験条件を再検討した上で、擦過刺激後のブリ体表粘液タンパク成分の解析を行い、創傷や修復の指標となる分子の詳細な同定を目指した。結果として前年度よりもばらつきを抑えたデータが得られ、刺激後特異的に発生するタンパク成分を多数特定することができた。それらの成分はストレス応答タンパクや創傷部位の防御に関与するとみられるタンパク成分が多くみられた。本試験条件において粘液総タンパク量は刺激後6時間で最大となり、24時間後には刺激前とほぼ変わらない状態に戻っていたことから、創傷ストレス後の魚類粘膜保護機構が速やかにはたらくことが示された。また特定したストレス応答因子等の産生部位と発現量変化を検証したところ、皮膚局所で産生されるものと肝臓で産生され血液成分として皮膚まで輸送され分泌しているものの両者があることが示唆され、刺激後の量的変動も検出することができた。 本試験を通じて、魚の体表粘液成分が刺激に応じて変動する動的モデルであることが明らかとなった。これらの体表から分泌される成分は養殖魚のストレス度合のマーカー因子として活用できると期待され、また飼育環境や飼料を評価する際にも重要な指標となる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は昨年度までに得られた粘液成分変動の解析結果から試験条件を再検討し、再度体表刺激試験を実施し粘液タンパク成分及び遺伝子発現解析用のサンプルを得た。結果として以前よりもサンプル間のばらつきを抑えることができ、刺激によって変動するタンパク成分をより詳細に検出することができた。変動がみられた因子としてはストレス応答因子や組織の保護にはたらくとみられるタンパクの他、細胞の代謝に関連する因子などが検出された。またこれらの因子は遺伝子発現レベルでもその産生箇所と刺激後経時的変化を検出しており、創傷ストレス後の全身における動的モデルを推察することができている。上記のように研究課題の進捗状況としては当初の目的を達成できており、今後これらの因子を個別に検出したり飼育水中からの検出系確立を目指すなど、更なる発展性が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに特定した、刺激後に粘液中に出現するタンパク成分は魚類養殖においてストレス応答の指標とできる可能性がある。これらのタンパク成分を飼育水中から検出できるかを検証したい。実験的に飼育水槽設備を設置し、ストレス試験や感染試験を行って水中からタンパク成分を検出できるか、プロテオーム解析技術や抗体による検出などの手法を試していく。これらの飼育水中でのタンパク成分変動が検出できれば、養殖現場においてリアルタイムに魚のストレス状況をモニタリングできる技術の開発に繋げられると期待される。 また昨年度採取したサンプルを用いてストレスによって増減したタンパク成分を引き続き探索し、魚類体表粘膜修復機構についてより詳細な知見を得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
当初の予定では変動するタンパク因子の特定までを目標としていたが、この取得した結果を養殖現場において飼育水中から検出できるか、検証する必要が生じた。次年度はこうした水中からの検出技術に関する技術開発のための予備試験を行い、本研究で得られた結果の産業面での利用の可能性を検証していく。
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