2021 Fiscal Year Research-status Report
原子力災害からの農業経営の再生と顧客との信頼関係構築のプロセスの解明
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21K14922
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
原田 英美 福島大学, 食農学類, 准教授 (10815492)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 農業経営 / 顧客との信頼関係 / 原子力災害 / 危機対応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、原子力災害により被災した農業経営のうち、一度は取引先を失いながら新たな顧客と深く結びついて経営再建を果たした農業経営の事例を対象に、経営展開の過程や顧客との信頼関係構築の過程を明らかにするものである。原子力災害による被災は、経営の新たな方向への舵取りにも顧客との関係構築にも大きく影響している。本研究では、第1に、原子力災害という危機への対応行動を把握し、その意思決定の過程を理解する。第2に、震災後に継続的な取引先となった顧客(スーパー、メーカー、リピーターの消費者など)との信頼関係構築のプロセスを理解する。顧客との関係という視点から福島県産農産物に対する風評払拭に新たな道筋を見出そうという狙いである。 初年度の2021年度は、顧客との関係に着目したマーケティング分野の文献を中心に、経営戦略やイノベーション関連などの文献を収集し、事例調査の分析視角となる理論や知識を整理した。マーケティング分野では、関係性マーケティングについて理解を深めたほか、顧客との相互作用的な価値創出に関連する概念について検討した。また、6事例の経営者に対するインタビュー調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の流行により、3事例の調査のみにとどまった。この3事例は予備調査を実施済みの事例で、今回は新たな分析視角をもって震災後の経営対応の意思決定と顧客との関係構築プロセスに焦点を合わせた内容を聞き取った。残りの3事例については、調査先を選定しただけに終わった。この新規の3事例に対してはインタビューに長い時間を要することからインタビューは見送り、今年度はインターネットや文献による情報収集のみ行った。 なお、論文として発表した成果は、3事例に対する予備調査を基に分析したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、主に①文献に基づく理論・知見の収集と分析視角の構築、②分析視角に基づく事例調査、の2つから成る。2021年度は、①に関しては主にマーケティング分野の文献収集から始め、分析視角を明確にしてから6事例に対して調査を実施する計画であった。 しかし、文献の選定・収集・内容の整理などに予想以上に時間がかかり、なかなか事例調査に着手できなかった。また、新型コロナウイルス感染症の流行により、国内・県内の移動が制約されたり、コロナ対応により長時間のインタビュー調査が困難になったため、計画通りに調査を実施することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の2022年度は、主に①原子力災害による風評問題に関する先行研究の整理を行い、②6事例の主要な顧客に対して聞き取り調査を実施することを計画していたが、初年度の遅れと新型コロナウイルス感染症の状況により、計画を少し後ろにずらす。また、調査方法として予定していた対面での時間をかけた半構造化インタビューが難しい場合、オンラインの活用も視野に入れ、オンラインの活用も難しい場合には調査方法の変更を検討する。今後の研究は、状況に応じて柔軟に修正することも想定しつつ、基本的には以下のように推進する。 第1に、2021年度に実施できなかった農業経営事例に対しての調査を行う。半構造化インタビューにより、実際の経営行動だけでなく、経営判断に至った経営者の考え方を聞き取り、経営展開や顧客との関係構築のプロセスを理解する。 第2に、原子力災害による風評問題に関する先行研究の整理を行う。先行研究の知見に基づき、顧客に対する調査設計を行う。この際、風評の払拭に有効と思われる要素が何かについて仮説を導き出すことを意図し、福島県農産物の風評払拭や風評被害を受けない農業経営のあり方を考える材料となる回答を得られるようにする。 第3に、農業経営6事例の主要な顧客に対する調査を実施する。当初は、主に首都圏の顧客を想定していたが、新型コロナウイルス感染症の状況によって調査が難しくなることも視野に入れ、調査先を検討したい。 第4に、これまでの調査結果に基づき、必要に応じて追加調査を行い、生産者と実需者・消費者の信頼関係構築のプロセスを明らかにする。 これらの研究成果は、学会での報告や論文執筆のほか、調査対象の農業経営者らを集めた報告会などで紹介し、現場に成果を還元すると同時に当事者の立場からの意見を寄せてもらう計画である。
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Causes of Carryover |
計画通りに使用できなかった理由は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、計画通りに調査ができなかったことが最も大きい。調査ができなかったため、旅費の支出がなかったほか、調査対象者や調査データ整理などの謝金の支出がなかったためである。また、今後も、調査先の変更や学会・研究会のオンライン開催などにより旅費の支出が減る可能性がある。
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Research Products
(1 results)