2021 Fiscal Year Research-status Report
分光法によるデンプン非破壊計測に基づく農産物の甘味と産業用途の推定
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21K14948
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中島 周作 神戸大学, 農学研究科, 助教 (00896938)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | デンプン / テラヘルツ・ラマン分光 / 農産物 / 糖 / 甘味 |
Outline of Annual Research Achievements |
デンプンは我々にとって重要なエネルギー源であり、加熱や加工により糖に分解されるため農産物の食味を決める要因である。例えば、カボチャやサツマイモは収穫時のデンプン量が多いほど、貯蔵や調理後に糖が増え甘くなる。従って、デンプン量を非破壊的に計測できれば、貯蔵や調理後など未来の甘さを推定できる可能性が高い。さらにデンプンは様々な産業製品の原料としても我々の生活を支えていることから、デンプン量が少なく食用に適さない農産物を産業用に回すことで、これまで廃棄されていた食品を救えると考えた。しかし、デンプンの定量は酵素法などの化学分析が一般的であり糖に分解した形で計測する。つまり、デンプンは既存の分析技術ではあまりにも巨大で、低分子と比べて分析が容易でない。そのため、農産物の食味や品質を決める要素であるデンプン定量法の多くが破壊試験に依存しており、非破壊で計測できる技術は見当たらない。 一方で、我々は分子間振動や集団振動が観察できるテラヘルツ・ラマン分光に注目してきた。これらの分光法では、サンプルの構造がスペクトルに反映され、結晶構造を持つ物質のピークだけが選択的に得られる。ここで農産物内の生体分子構造に目を向けると、多くの分子は溶解や結合により構造が崩れた状態で存在するが、デンプンは生体内でも結晶構造を保つ。これらの特性を利用することで、これまでにテラヘルツ分光法により乾燥食品に含まれるデンプンを非破壊的に定量できることを明らかにしてきた。ただし、テラヘルツは水の吸収が大きく青果物に展開するには水の情報をどのように抑えるかがポイントであった。そこで今年度は、水の影響を受けにくいラマン分光を用いて青果物内のデンプンを簡易的に測定できるかを検討した。さらに基礎的な知見を得るため、異なる農産物から得たデンプンをラマン分光で測定し、構造とスペクトルの関係性を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラマン分光法による青果物内デンプン計測の可能性を調べるため、追熟過程のバナナを対象とした。具体的には、未成熟なグリーンバナナを常温で10日間貯蔵し、2日ごとにHPLCによりデンプンと糖量、さらにラマン分光スペクトルを測定した。結果として、追熟が進むにつれデンプンは分解され減少したのに対し、糖が増加することが確認された。未成熟なバナナの分光スペクトルはデンプン標準品の試薬と類似しており、同様なピークが見られた。また追熟が進むにつれ、これらデンプンのピークは徐々に消失していった。一方で、追熟が進むにつれ増加した糖のピークは分光スペクトルには現れなかった。さらに473 cm-1のピーク強度からデンプン量を精度よく推定できたため(R2=0.88)、ラマン分光により水を多く含む農産物であってもデンプンを選択に観察できることが明らかになった。従来法ではデンプン定量には数日を要していたが、本手法ではわずか20秒で測定できることから簡易的な定量法になる可能性が示唆された。 デンプンは植物種によって形状や構造が異なるため、ラマン分光スペクトルにも違いが出ると予想される。そこで、異なる6種類の植物種から得られたデンプンの構造と分光スペクトルを測定した。全てのデンプンで473 cm-1の顕著なピークが現れたが、植物種によって強度に違いが確認された。構造との関係性を調べたところ、粒子径が細かいデンプン程、ピーク強度大きくなることが明らかとなった。よって実際の農産物を測定する際、デンプンの粒子径が細かいものほどピークが大きく出る可能性が示唆され、推定精度の向上に繋がることが示された。上記の「デンプン簡易計測」および「デンプン粒子径とラマン分光の関係性」についてまとめた内容を国際誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
ラマン分光によりデンプンの簡易測定が見えてきたため、農産物内デンプン量を非破壊的に測定し調理や貯蔵後の甘味を推定していく。これまで知見に基づくと、粒子径が細かいデンプンを含む農産物ほど顕著なラマンピークとなるため、非破壊計測の精度向上に繋がる可能性が高い。現状、対象サンプルは未定であるが、一般的に、穀物や豆類はイモ類や果実よりデンプン粒子径が小さい傾向にある。従って、これらの農産物を対象として実験を進めていく予定である。ラマン分光を用いたデンプン非破壊計測から農産物の食味が推定することで、農産物の高付加価値化や食品ロス削減に寄与する技術を創出できるものと考えられる。
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